【7月27日 AFP】米ニュージャージー(New Jersey)州に住むセレゴン・オダシー(Seregon O'Dassey)さんは血の味が大好きだ。そして太陽の光が嫌いで、部屋のカーテンは締め切っている。コウモリ模様の品々が並ぶ部屋で、彼女は自分は列車事故で1892年に一度死んだのだと話す。

 バンパイア(吸血鬼)を主人公としたTVドラマ『トゥルーブラッド(True Blood)』や映画『トワイライト(Twilight)』シリーズの大ヒットで、米国ではいまバンパイアが大流行。人間の血を吸って生きるバンパイアがらみの小説や商品が次から次へと売れている。

 オデイリーさんも、こうしたバンパイアブームで誕生した多くの自称バンパイアの1人だ。

 奇妙な現象だが、暗く反宗教的なバンパイアファッション自体が一種の「宗教」と化している。自称バンパイアたちの間には共通の規則や司祭が存在し、秘密の集会や大規模な式典も行われている。

 数か月ごとに舞踏会も行われ、数百人のバンパイアが参加するという。次回の舞踏会はペンシルベニア(Pennsylvania)州フィラデルフィア(Philadelphia)で31日に開かれる予定だ。

■宗教団体のようなコミュニティーも出現

 こうしたバンパイアたちは、ステファニー・メイヤー(Stephenie Meyer)氏のバンパイア小説「トワイライト」シリーズに夢中のティーンエージャーや、1970年代にアン・ライス(Ann Rice)氏のバンパイア小説にはまったファンたちが中心だ。

 「バンパイアは宗教団体のようなもの」とオデイリーさんは話す。「バンパイアの歴史を描いた史劇もあるし、派閥もある。会長や聖職者に相当する地位のバンパイアもいるのよ」

 しかし、現代のバンパイアは想像しているよりも穏やかな性質のようだ。オデイリーさんは、ニンニクも食べるし、血を吸うのは最小限にとどめているという。「たまに自分の指先を針で刺して、血を吸うの。わたしたちは他人の首筋に噛み付いたりはしない」

 一方、男性のバンパイア、ホアキン・ラティーナ(Joaquin Latina)さんはパスポートに記載された年齢は35歳だが、本当は2744歳だと言う。

■謎めいて官能的、高い市場価値

 子どものことからバンパイアに魅せられたラティーナさんは、バンパイアに関するあらゆる小説を読破し、TVドラマ『トゥルーブラッド』も1話も見逃したことはない。ラティーナさんは『トワイライト』よりも『トゥルーブラッド』を評価している。「バンパイアは化け物ではない。人間より、もっと美しい永遠の生命をもった生き物なんだ。人間の暗い一面を理想化した存在で、現代でいえば、ロックスターのようなものだね」

 ラティーナさんによると、ここ十数年、清潔で法規制が行き届いて安全になったニューヨーク(New York)は、バンパイアにとって住みにくい街になったという。今、居心地がよいのはフィラデルフィアだということだ。

 ニューヨーク(New York)のシラキュース大学(University of Syracuse)のロバート・トムソン(Robert Thomson)教授(社会学)は、古くからバンパイアはある程度の関心を集めていたが、『トワイライト』や『トゥルーブラッド』によって東欧の吸血鬼という要素が取り除かれ、完全に身近なものになったという。

 さらにトムソン教授は、暗く謎めいた存在でありながら官能的な一面も持つバンパイアには、高い市場価値があると話す。「バンパイアのファッションや生活様式を共有することで、一種のコミュニティーが生まれる。これによって、バンパイアが一つのブランドとして成立するのです」(c)AFP/Paola Messana