【7月9日 AFP】32か国が熱い戦いを繰り広げた2010年サッカーW杯南アフリカ大会(2010 World Cup)は11日の決勝でついにクライマックスを迎えるが、この日、ピッチの外でも歴史を塗り替える男がいる。W杯1大会中の最多観戦のギネス世界記録(Guinness World Records)を31試合に更新しようとしているツラニ・グコボ(Thulani Ngcobo)さんだ。

 決勝を観戦すれば、今大会でグコボさんが観戦した試合数は、全64試合中38試合となる。ただし、飛行機の遅れで試合開始から2分遅れてスタジアムに到着した試合など計7試合はギネス記録に数えられないため、公式記録は31試合となる見込みだ。

■「最多観戦」は達成済み

 グコボさんはすでに、今大会以前のギネス記録で前人未踏だった20試合観戦を6月25日に達成。試合開始から終了のホイッスルの瞬間まで観戦していたことを示す証明書とギネス認定証を贈られている。

 無類のサッカー好きのグコボさんは、今大会の開催都市の1つ、プレトリア(Pretoria)在住で、政府の土地改革関連局に勤める29歳の公務員。

 大会中の1か月間、スタジアムの外に車を止め、睡眠不足を栄養ドリンクで吹き飛ばし、国内の開催都市を行ったり来たりと渡り歩いてきた。4試合をはしごするため、48時間以内に3000キロを走破した日もある。決勝までの全走行距離は実に1万7000キロに達する。

■舞い込んだ「一生に一度のチャンス」

 睡眠は移動の合間にこま切れにしか取れないが、ひとたびスタジアムに足を踏み入れれば、眠気など消えうせると話す。「一生に一度しかかなわない夢が、かなったんだ。チャンスが到来したなら、実現するために気を引き締めて、できることは何でもやらなくちゃ」

 グコボさんの当初のW杯予算は、最も安いカテゴリーの席10試合分と、フェリーを入れた交通費1000ランド(約1万1700円)の合計2000ランド(約2万3000円)だけだった。

 そこに「夢のチケット」が舞い込んだ。W杯の公式スポンサーである南アフリカの携帯メーカー大手MTNが主催した「ラスト・ファン・スタンディング(Last Fan Standing)」というコンテストで優勝したのだ。賞として、すべての交通費・宿泊費がMTN持ちとなり、何よりもVIP席チケットの束を手にした。

「僕はお金もないし、普通の人間だけど、ギネス記録に挑戦した。すべてはチャンスをどう生かすかだ。ほかの人にも挑戦してほしい。簡単なことじゃないって分かってもらえると思う」。2012年のアフリカ・ネイションズカップ(African Nations Cup)、2014年のW杯ブラジル大でも自己記録更新に挑戦したいと、現在スポンサーを探している。

■もうすぐ終わる、23日間の夢の休暇

 今大会の出場国32か国中、見ることができなかったチームはスイスとギリシャのみ。何より残念だったのは準々決勝に唯一残ったアフリカ選出チーム、ガーナの敗退だ。出会ったサポーターの中で最も熱かったのはメキシコ代表サポーターだったという。ポルトガルが北朝鮮を7-0で下したゲームは「試合後のダイジェスト版を見ているみたいだった」。

 イングランドのウェイン・ルーニー(Wayne Rooney)やブラジルのカカ(Kaka)、アルゼンチンのリオネル・メッシ(Lionel Messi)といったスター選手は十分輝けないまま姿を消したが、それでも2009年のFIFA年間最優秀選手(FIFA World Player of the Year)であるメッシを生で見られたのがグコボさんにとって一番のハイライトだそうだ。「テレビで見ていたときは、彼はプレイステーション(PlayStation)か機械かって思ってたよ。ナイジェリア戦で生で見たときは大感激だったね」

 普段は南アフリカ1部リーグ、カイザー・チーフス(Kaizer Chiefs)サポーターのグコボさん。3歳の息子を置いて家を空けていた23日間の夢の休暇を終えて12日、普段の日常に戻る。(c)AFP/Justine Gerardy