【5月27日 AFP】南アフリカのタウンシップ(旧黒人居住区)、カエリチャ(Khayelitsha)。粗末な家が建てこみ、未舗装の道路はほこりだらけだ。トタン板を張った木造の建物に「南アで一番小さなホテル」という看板が出ている。

 ケープタウン(Cape Town)の海沿いに立ち並ぶ5つ星ホテルとは随分違うが、6つの寝室があるこの小さなゲストハウス「ビッキーズ・ビー・アンド・ビー(Vicky's B'nB)」は、2010年サッカーW杯南アフリカ大会(2010 World Cup)が開幕する6月11日からの2週間は予約でいっぱいだという。宿泊料金は1泊1人当たり300ランド(約3400円)だ。

「ビッキーズ~」のオーナー、ビッキー・トズィニ(Vicky Ntozini)さん(37)は幸運な方だといえる。宿泊施設不足の懸念さえあったが、W杯開幕が近づくにつれ、中心地から離れた宿泊施設では客室が埋まらない恐れが出てきたからだ。

 会計コンサルティング会社、グラント・ソーントン(Grant Thornton)は前月、6月11日から7月11日までの大会期間中に南アを訪問する外国人数を、2年前に予測した48万3000人から40万人未満に下方修正した。

■ネット販売は好調だが・・・開催地間の格差も

 前月には、国際サッカー連盟(FIFA)のホスピタリティー事業(宿泊、グッズ販売、観光など)の独占権を持っているスイスのマッチ・ホスピタリティ(Match Hospitality)が、確保していたホテルの部屋を半分に減らしたと報じられた。開幕直前になっても埋まらない部屋を処分したとみられる。

Federated Hospitality Association of South Africa(南アフリカホスピタリティ団体連合、FEDHASA)のブレット・ドゥンガン(Brett Dungan)最高経営責任者(CEO)は、「業界にとって残念なことだが、事前に考えていた状況とは大きく異なる。だがまだ終わったわけではない。販売に最後の追い込みをかける」と話す。

 宿泊予約が伸び悩んだ理由として、世界的な景気後退、高額な観戦チケットや宿泊料金、アイスランドの火山の噴火に加えて、犯罪に対する懸念、使いにくい予約システム、南アフリカが遠いことなどが挙げられている。

 マッチ・ホスピタリティは公表していないが、報道によると同社は180万泊分のベッドを確保していた。宿泊料金を平均的なサッカーファンに手が届かない水準に設定したとの批判は、ホテルチェーンと協力して料金の引き下げに取り組んでいるとかわした。

 同社の宿泊予約部門は、開幕戦と決勝戦が行われるヨハネスブルク(Johannesburg)や交通が便利な開催地の人気は高く、ウェブサイト「FIFA.com」からの予約も好調だとしているが、「ネット以外の販売経路には、期待に達しなかったものもある」という。

■南ア生活を体験するなら旧黒人居住区に

 W杯期間の敗者は、白人支配時代に黒人が居住を強制されたカエリチャのような貧しい旧黒人居住区のゲストハウスになりそうだ。

 3つの旧黒人居住区の23軒の宿が加盟する団体の一員でもあるトズィニさんは、「みな文句を言っています。とても期待していて、今ごろはお互いに客室を融通しないといけないだろうと思っていたのに。とてもそんな状況ではありません」と話す。

 トズィニさんは、旧黒人居住区に滞在すれば、W杯で訪れる人たちに南アの違う側面を見せられると言う。

「旧黒人居住区の宿と都市の大きなホテルには大きな違いがあります。ホテルでは大勢の客のなかの1人でも、ここでは家族の一員になれる。本当の南ア生活を体験したいならここに泊まるのが一番」(トズィニさん)。ロバの引くカートで街巡りをしたり、手作りの食事も提供できるという。(c)AFP/Justine Gerardy