【3月23日 AFP】インドでは、超音波検査で判明した胎児の性別を妊婦に教えることは、法律で禁止されている。しかし、妊婦には青色かピンクの診断明細書が手渡される。その色が意図するものは明白だ。

 だが、息子を切望する妊婦にとって、ピンク色の明細書は中絶クリニック行きを意味する。「胎児の奇形」という理由での中絶は、おおむね正当化されており、女児妊娠による中絶は数多い。

 このように、インドと中国では法の網の目をかいくぐるようにして中絶や幼児殺害やネグレクト(育児放棄)が行われ、「(命を)失われた女性たち(Missing Women)」が8500万人にも達する一因となっている。

 インドの著名な女性人権活動家、ピンキ・ビラニ(Pinki Virani)氏も「色分けされた明細書といったトリックが、当然のように横行している」と指摘する。「富裕層、貧しい人びと、都会、田舎を問わず、ジェンダーサイド(性差に基づく大量殺人)は日常的に行われている。カナダに移住したインド人でも同じだ」

■女児不足が負の連鎖反応生む

 「失われた女性たち」という言葉は、1998年にノーベル経済学賞を受賞したアマーティア・セン(Amartya Sen)氏が1990年に自署のなかで提唱したものだ。

 「失われた女性たち」の人数は、現在の人口における実際の男女比を、妊娠・出産・出産後に男子と同等の医療が受けられたと仮定した場合の理論的な男女比と比較して導き出される。

 国連開発計画(United Nations Development ProgrammeUNDP)が8日に発表した報告書によると、アジアの「失われた女性」は約1億人に達する。このうち8500万人が、中国とインドに集中している。このほか、バングラデシュ、パキスタン、イランでも「失われた女性」は数多い。

 先のビラニ氏によると、クリニックが胎児の性別を教えなかったとしても、米国のクリニックに血液サンプルを送付して、結果を電子メールで知ることも可能だという。

 ビラニ氏は、女児の不足が、様々な地域社会で悲惨な連鎖反応を引き起こすさまを目の当たりにしてきた。こうした社会では一妻多夫、児童への性的虐待、売春が増加する傾向にあるのだという。

■性別判断も中絶も容易に

 男女数の不均衡は、特にアジア(南アジアを含む)で顕著だ。伝統的に男児が好まれるうえ、胎児の性別を容易に判明できる超音波診断などの現代技術が、こうした傾向に拍車をかけている。

 中国では、胎児の性別に基づく中絶は1995年に禁止されている。だが、中国社会科学院(Chinese Academy of Social Sciences)による最新の推計によると、2020年には結婚適齢期を迎えながらも伴侶を見つけられずに独身のままでいる中国人男性は2400万人を超える見込みだ。

 医療専門家によると、自然な男女の出生比率103~107:100に対し、中国における2005年の出生比率は119:100で、なかには130:100と、男児が異様に多い地域もあった。

 だが、中国人女性のなかには、一人っ子政策によって人口が抑制された結果、数少ない女性の希少価値が高まると歓迎する人もいる。42歳のある既婚女性は「女性人口が少なければ女性の選択肢は増えるし、男性は(女性にもてようと)努力する。女性にとっては素晴らしいことだ」と話す。

 一方、インドで男児が好まれる背景には、ヒンズー式の葬儀では息子の役割が大きいことや、息子が一家の収入を担うといった事情がある。反対に女児の場合は、嫁ぎ先の家族に多額の持参金を払わねばならないなど「お荷物」扱いされることが多い。

 インドでは新生児の殺害件数は減少しているものの、胎児の性に基づく中絶が深刻化している。各都市や村々にまで持ち運び式の超音波診断装置が出回っており、胎児の性別診断料は1回わずか10ドル(約900円)、中絶手術は45ドル(約4000円)程度という手軽さが、問題の根底にある。(c)AFP/Ben Sheppard