【12月11日 AFP】南アフリカ・東ケープ(Eastern Cape)州に住むノリズウィ・シナマ(Nolizwi Sinama)さん(17)は、14歳のとき、牛3頭と引き換えに、自分の3倍の年の男と結婚させられた。

 その日は突然やってきた。家族にKwaCele村へ連れて行かれ、「お前の新しい夫だ」と言われて男の家の前に置き去りにされたのだ。「夫」は42歳。毎日のようにセックスを強要された。

 そして「結婚」から3年後の今年7月に、男との間にできた2歳の息子を連れて逃亡した。現在はパルマートン(Palmerton)にある、虐待を受けた若者たちのためのシェルターで暮らしている。シナマさんは涙ながらに語る。「実家には帰れませんでした。結婚前、祖母から『絶対に帰ってくるな』と言われていましたから。家族は(婚資として)牛3頭を受け取り、それを売ってお金を得ていたんです」。

 コーサ(Xhosa)族など、南アフリカの多くの部族社会でかつて秘密裏に行われていた「ukuthwalwa(コーサ語で『連れ去られる』)の意、つまり「連れ去り婚」が、南アフリカの農村部で復活しつつある。貧困にあえぐ家族が、金欲しさに、この手段に訴えているのだ。

 東ケープ州は、20万人近い住民が1日1ドル以下で生活する貧しい地域であり、連れ去り婚の犠牲者は数百人にも達している。

 シナマさんが暮らすシェルターには、彼女と同じような境遇の少女がほかにも18人いる。彼女たちは口々に、自分が知らない間に両親と「夫」の間で取り決めが交わされていたと言う。結婚後は退学せざるをえず、思春期が終わらないうちから出産を強要される。そして多くの共同体が、連れ去り婚には何の問題もないと容認する態度をとっている。

 だが、福祉当局や警察はこのような慣習を根絶しようと、少女の保護や関係者の摘発を精力的に行っている。これまでに多数の「夫」と両親らが逮捕された。「夫」はたいてい強姦と誘拐の容疑で起訴されるが、これまでに有罪となった例はひとつもない。

■かつての「連れ去り婚」との違い

 連れ去り婚はもともと、意中の女性への求愛がうまくいかなかった男性が最後、根回ししてその女性を妻にしようというときに訴える手段だった。昔は、連れ去られるのは成人女性と決まっていた。

 だが今や、60代の男性が年端も行かない少女を拉致して結婚を強いるようなケースが続発していることに、福祉関係者らは怒りを募らせている。
 
 ローズ大学(Rhodes University)元教授のPeter Mtuze氏は、連れ去り婚は現代には全くそぐわないと、復活傾向を非難している。「かつての連れ去り婚は、女性はプロポーズを承諾するまで、安全な場所に置かれていた。女性が承諾した時点で、女性の両親にその旨が伝えられ、そこで初めてロボラ(婚資)の交渉が始められていた」。それが現代の連れ去り婚では「最も高値を申し出た男に文字どおり、少女たちが売られている」

 南アフリカ政府と国連人権理事会(UN Human Rights Council)は、このような連れ去り婚を強く非難している。(c)AFP