【11月18日 AFP】ロウ・ジン(Lou Jing)さん(20)は、上海オペラを歌い、流ちょうな標準中国語を話す。だが、中国の次のスターを発掘するオーディション番組に彼女が出演したとき、文句をつけられたのは、彼女の声ではなく、肌の色だった。

 ロウさんの母親は中国人で、父親はアフリカ系米国人。父親はもう中国にはいない。彼女がオーディション番組『Let's Go! Oriental Angel(レッツゴー!オリエンタル・エンジェル)』の上海(Shanghai)地区予選で5人のファイナリストの1人に選ばれると、彼女は一躍「時の人」となった。実際には、「黒い肌の彼女が中国のテレビ番組に出演すること自体、ふさわしいことなのか」、国中で激しく時には悪意に満ちた論争が沸き起こったのだ。

 バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領の初の訪中が控えていた時期、ロウさんのこうした経験は、中国における人種意識、そして経済発展が民族的に多様な社会を形成していくなかで中国が直面する問題を浮き彫りにすることとなった。

 ロウさんは、AFPのインタビューに対し、「わたしは中国人です」と語った。「でも、さまざまなコメントを読んでいるうちに、自分に初めて疑問を感じるようになりました。自分がほかの人たちとどう違うのか、意識するようになったのです」

■中国人の人種差別意識

 オバマ大統領は中国人に非常に人気があり、中国はアフリカとの関係を急速に拡大してもいる。にもかかわらず、今回のことは漢人が大多数を占める中国における根深い人種差別意識を露呈したものだと、コメンテーターたちは語る。

「オバマが大統領に選ばれたその同じ年に、われわれはまだ、肌の色が違うこの少女を受け入れられないのだろうか?」と、テレビ司会者のフン・ホアン(Hung Huang)氏は疑問を投げかける。「われわれは、肌の色がわれわれよりも白い人種を賛美する一方で、肌の色が黒い人に偏見を持ちがちだ。われわれの奥深いところにある邪悪な部分だ」

 中国国営英字紙チャイナ・デーリー(China Daily)のコラムニストであるレイモンド・チョウ(Raymond Zhou)氏は、黒い肌への偏見は、階級差別(肉体労働者は日に焼けており、金持ちは青白い顔をしている)から派生したものだとしている。

「われわれの多くは、たとえ同胞であっても、色黒の人、特に色黒の女性を見下す傾向がある。美白化粧品はよく売れるし、子どもであっても、色白の肌は称賛されている」

■夢は捨てていないが・・・

 全国大会に進んだロウさんだが、次のラウンドには進めなかった。審査員たちの判断には驚いていない。ただ、ウェブに数千通寄せられた投稿の中身にショックを受けたという。その多くが否定的で、人種差別がむき出しにされていた。「思わず泣いてしまった。傷つきました。わたしは誰1人、傷つけようと思ったことはなかったのに」 

 ロウさんはテレビの司会者になる夢を捨ててはいないが、果たして中国の放送界に将来居場所を見つけられるのか、やや悲観的になっている。(c)AFP/D'Arcy Doran