【11月5日 AFP】朝の通勤列車内は思考の旅に最適――こんな試みをイスラエルの大学が行っている。

 エルサレム・ヘブライ大学(Hebrew University of Jerusalem)が毎週水曜日の朝の通勤時間帯に実施している「サイエンス・オン・ザ・レイル(列車の中で学ぶ科学)」というプログラムは、文字通り、「列車内で大学教授が通勤客に講義を行う」もの。人々に高等教育の魅力を広く訴えるとともに、学問の世界にいざなうことを目的としている。

 同大の広報担当者は同プログラムについて、「高等教育は危機にひんしている。高等教育の重要性と、国のために果たす役割について、人々に理解してもらう必要がある」と説明する。

■科学プラスアルファの講義内容

 プログラム初の講義は4日の午前9時ちょうど、テルアビブ(Tel Aviv)郊外のモディイン(Modiin)からテルアビブ市内に向かう列車の中で始まった。元学長のハノク・グートフロイント(Hanoch Gutfreund)教授による講義のタイトルは、「アインシュタインのラブレター」。乗客たちは、読んでいた新聞をたたみ、iPodも外して、講義に耳を傾けた。

 グートフロイント教授は、理論物理学者アルバート・アインシュタイン(Albert Einstein)が2人の妻にあてたラブレターの詳細な内容を語って、乗客たちを楽しませた。これは、宇宙概念に革命を起こした偉大な科学者の人生について、個人情報から洞察を深めてもらおうという試みだ。

 この主題には、「科学的要素を含み、かつ多くの人に関心を持ってもらえるものを」との意図が込められている。エルサレム・ヘブライ大学には、アインシュタインの手書きの文書などを保管する「アルバート・アインシュタイン・アーカイブス(Albert Einstein Archives)」がある。

■科学嫌いを心配したものの・・・

「聴講生の半数がわたしに背を向けている状態での講義は初めてです」――そんなコメントも出たグートフロイント教授の初講義は、次に止まる駅名を告げる車内アナウンスで時々中断するものの、評判は上々だった。

「すばらしかったわ。本当は大学の講義に通いたいけど、時間がなくて」と語った通勤客の1人、イサベルさんは、この講義に毎回出席できるよう、朝の通勤時間をずらすことを考えているという。といのも、前例のない試みのため、講義は朝のラッシュ時間が一段落した時間帯に、1両の車両のみで行われているためだ。

 列車がいくつものトンネルを抜け、空港も過ぎたころに、1人の女性が講義をさえぎって教授に質問した。「テルアビブの駅に着くまでに、講義は終わりますか?」――教授は答えた。「マダム、テルアビブの駅に着くころには、あなたは学士号を取得していますよ」(c)AFP/Gavin Rabinowitz