【10月21日 AFP】20年前の11月、ドイツ・ベルリンの壁(Berlin Wall)が崩壊し、西側のポルノショップへと群がった東ドイツ市民に向けて、西ドイツのポルノ店は「ついにセックスが手に入る」、「快楽に国境はない」などの大きな見出しを掲げた。

■西側への好奇心

「とても無垢(むく)な心が生んだ好奇心だったのだよ」――ドイツ東部ライプチヒ(Leipzig)に暮らす、社会学者で性文化の専門家、クルト・シュタルケ(Kurt Starke)さん(70)は当時を思い返してこうつぶやいた。

「ポルノショップには恋人たちだけでなく、ときには、子どもを連れたおばあちゃんも行った。われわれは、西側のありとあらゆるものを知りたかったのだ」

 全体主義国家だった旧東ドイツ(ドイツ民主共和国、German Democratic RepublicGDR)では、ポルノと売春は重大な禁忌とされていた。シュタルケさんは、「東側の体制は、西ドイツの性風俗産業をブルジョア階級の退廃とみなしていた」と振り返る。

 一方、当時の東ドイツで、X指定のビデオテープを闇市場で販売していたウォルフガング・フェルスター(Wolfgang Foerster)さん(55)は、「人々はポルノの魅力に引き込まれていた。だから、あっという間に売りさばくことができた」と当時のことを語る。フェルスターさんは、その後ドレスデン(Dresden)で、旧東ドイツで最も早くにできたストリップ店の1つを開店した。

■ドイツ統一で流入するポルノ

 ドイツ統一が果たされるやいなや、1990年には旧東ドイツの市場に目をつけた起業家らが進出した。

 当時はまだ、旧東ドイツでの適法性は不確かだったものの、売春婦の一団が荒廃した旧東ドイツの街路に停泊し、街角には安っぽいポルノショップが次々と開店した。

「その後、法規制が成立したので多くの事業が閉鎖し、市場の開拓者たちは去っていった。多くの起業家は、西ドイツで成功できなかった素人だったよ」(フェルスターさん)

 それから、独アダルトショップ大手Beate Uhseなどの性風俗業界が参入した。しかし、バイブレーターなどの性玩具に対する旧東ドイツ市民の好奇心が衰えてくると、旧東ドイツでの需要は減少していった。

 近年では、旧東ドイツで「昔のような愛のかたち」に対する郷愁がわき起こるようになったという。

 約20年にわたって、旧東ドイツ出身の若者のためにコラムを書き続けたというベルリン(Berlin)のライター、Jutta Resch-Treuwerthさん(67)は、「(かつては)男性と女性は、おのおのの想像力に頼っていた。それがセックスをあまり気疲れしないものにしていたんだ」と懐かしんだ。(c)AFP/Etienne Balmer