【10月13日 AFP】ノーベル賞受賞者の発表は少なからず驚きをもたらすものだが、発表寸前の予想が的中すると、選考委員会がリークしたのではないかとの疑惑が持ち上がることになる。

■平和賞の場合

 前週9日、ノルウェーのノーベル賞委員会がバラク・オバマ(Barack Obama)米大統領にノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)を授与すると発表したとき、居合わせた記者団の間にはどよめきが起こった。しかしその前日、ノルウェーの民放テレビTV2はオバマ大統領の受賞を予想していた。

 同局の担当記者は、オバマ大統領の名前がリークされていたわけではないと主張している。「ノーベル賞委員会の気持ちになって考えてみただけ。根拠はほとんどなかった」

 なお、ブックメーカー(賭け屋)のサイト「www.paddypower.com」では、サイトの大規模な障害により発表の数時間前に賭けの申し込みが中止されたものの、目端の利く人びとがオバマ大統領に賭け、オッズ(賭け率)は33倍から18倍に下がった。
 
 ノルウェーのノーベル賞委員会は例年、リークを否定。候補者リストでさえ、50年間は極秘扱いだ。受賞者の名前をあらかじめ知っているのは同委員会の5人の委員と同委員会事務局長のゲア・ルンデスタッド(Geir Lundestad)氏のみで、ルンデスタッド氏は以前、妻にさえ漏らしたことはないと話している。

 こうした秘密主義により、ノーベル平和賞の発表間近になると、各メディアの間で激しい予想合戦が繰り広げられることになる。 
 
 近年、的中率が高いのはノルウェー国営放送局NRKだ。2003年にはイランの女性人権活動家で弁護士のシリン・エバディ(Shirin Ebadi)氏、2004年にはケニアの環境活動家ワンガリ・マータイ(Wangari Maathai)氏をそれぞれ予想し、的中させた。いずれも、当時は無名だった人物だ。

 そして前年、マルッティ・アハティサーリ(Martti Ahtisaari)前フィンランド大統領の受賞が発表された時には既に、同局のレポーターが、アハティサーリ氏の部屋の外で待ち構えていた。

 だが同局は今年、予想を外してしまった。ある幹部はAFPに対し、「通常、われわれはさまざまな手掛かりや情報をもとに判断するのだが、今回はパズルのピースをうまく組み合わせることができなかった」と話した。

■文学賞の場合

 平和賞以外のノーベル賞が発表されるスウェーデン・ストックホルム(Stockholm)でも、特に文学賞(Nobel Literature Prize)においても、毎年、同様のリーク疑惑が持ち上がっている。

 前年にフランスの作家ジャン・マリ・ギュスターブ・ ル・クレジオ(Jean-Marie Gustave Le Clezio)氏受賞を的中させたスウェーデンの日刊紙ダーゲンス・ニュヘテル(Dagens Nyheter)は、発表前日の7日、文化面の一面にルーマニア出身のドイツ人作家ヘルタ・ミュラー(Herta Mueller)氏の特集を組んでいた。

 文化面担当の編集者は、「名前はリークされたものではない」と話し、文学賞を授与するスウェーデン・アカデミー(Swedish Academy)側もリークの事実はないとしている。

 同アカデミーのOdd Zschiedrich氏はAFPに対し、「(同紙の予想は)知識に基づいた推測だ。しかも同紙は長年、ミュラー氏を有力候補と目してきた」と話した。

 同紙の記事のあと、英ブックメーカーのラドブロークス(Ladbrokes)では、ミュラー氏のオッズがイスラエルのアモス・オズ(Amos Oz)氏に次ぐ2位に跳ね上がった。

 スウェーデンの出版社Bonniersの編集者、Stephen Farran-Lee氏も、ミュラー氏の受賞を予想していた。同氏いわく、スウェーデン・アカデミーの行動をつぶさに観察するだけで予想は楽になるという。

 ミュラー氏の名前は、前年、あるブックフェアでミュラー作品に関するセミナーにノーベル賞委員会のメンバーが参加しているのを目撃されたあとで取りざたされるようになった。過去に受賞したハンガリーのイムレ・ケルテース(Imre Kertesz)氏、オーストリアのエルフリーデ・イェリネク(Elfriede Jelinek)氏の場合にも、同様のことが起こっていたという。(c)AFP/Pierre-Henry Deshayes