【9月13日 AFP】アラブの首長からは純金の馬像を贈ると言われ、実業家たちからは高級スポーツカーを約束されているが、次週、彼が刑務所から出所したら、淡々と以前の仕事に戻るだろうと同僚たちは信じている。

 イラクの小さな民間テレビ局に勤務する無名記者が、一躍世界で有名になったのは2008年12月、任期満了前に同国を訪問したジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)米大統領に靴を投げつけてからだった。

 アルバグダディヤ(Al-Baghdadia)テレビのモハメド・ワデーさんは、14日に出所する予定の同僚記者ムンタゼル・ザイディ(Muntazer al-Zaidi)受刑者(30)について、靴投げ事件で得た知名度に乗じてイラクを離れ、レバノン・ベイルート(Beirut)やエジプト・カイロ(Cairo)で一旗揚げようという誘惑には彼は乗らないと信じている。

 ザイディ受刑者の元には今、アラブ世界で名の通った衛星テレビ局数社から、ニュースキャスターとしての仕事のオファーが舞い込んでいるが、ワデーさんいわく、ザイディ受刑者は「すべて断った」という。「アルバグダディヤは彼を本当に支え、援助してきた。彼がこのテレビ局を辞めるなんて思えないよ」

 しかしザイディ受刑者の出所後、まず暮らし向きは変わるだろう。前年逮捕されたとき彼が住んでいたのは質素な2間のフラットで、階段の吹き抜けは落書きとごみでいっぱいだった。ところが次週出所すれば、彼のおかげでカイロに本社がある弱小テレビ局が大いに宣伝されたとして、アルバグダディヤ・テレビの上司がペントハウスの購入を約束している。

 兄弟のデュルハムさんは「金をくれるという話はたくさん来たし、カタールの首長からは金の馬の象を贈ると言われ、ムアマル・カダフィ(Moamer Kadhafi)大佐にはリビアで最も位の高い称号を授けると言われた。スポーツカーを買ってやるという人も何人もいる」と、アラブ世界からザイディ受刑者に集まった注目に驚いている。

 デュルハムさんによると、ザイディ受刑者が今後どうするかははっきりとは決まっていないが、各方面から約束された金銭を使って、イラク戦争で孤児となった子どもたちや夫を失った女性たちのための宿泊所や施設を建設することが、挙がっている計画のなかでも特に有力だという。(c)AFP/Marwa Sabah