【8月24日 AFP】完ぺきを追い求めセットのためには金に糸目をつけない、世界で最も引っ張りだこの写真家アニー・リーボヴィッツ(Annie Leibovitz、59)氏が、破産の危機に直面している。飽くなき芸術の追求が原因、という声もあるようだ。

 完ぺきな写真を目指すリーボヴィッツ氏の追求に限界はなかった。元アクション俳優で現カリフォルニア(California)州知事のアーノルド・シュワルツェネッガー(Arnold Schwarzenegger)氏を山頂に立たせ、黒人女優ウーピー・ゴールドバーグ(Whoopi Goldberg)を牛乳の風呂に入れ、マリー・アントワネットに扮(ふん)した女優キルステン・ダンスト(Kirsten Dunst)を撮るためにベルサイユ(Versailles)宮殿を貸し切った。

 サーカス団の動物、炎、飛行機など、一見突飛なセットに思えるものでも、リーボヴィッツ氏が要求して手に入れられなかったものはほとんどなかった。

 そんな空想的でリーボヴィッツ氏らしい超現実的な写真の被写体になろうと、ハリウッドスターからエリザベス女王(Queen Elizabeth II)まで数多くの有名人が撮影を依頼してきた。

■作品を担保に借金

 しかし、無尽蔵にみえた経済的資力の裏で、リーボヴィッツ氏は悪夢へと突き進んでいた。

 今思えば破滅的な決断となったのは、高額の美術品を担保にした融資を行うアート・キャピタル・グループ(Art Capital GroupACG)から受けた2400万ドル(約22億7000万円)の融資。2008年12月、自分の作品の著作権を担保に融資を受けたのだ。

 返済期限は9月8日に迫っており、返済できなければ作品の著作権を失うことになる。ACG側は、強硬な姿勢を崩しておらずリーボヴィッツ氏側に契約の履行を求めている。

 リーボヴィッツ氏が失おうとしているのは、ニューヨーク・タイムズ(New York Times)紙が総価値5000万ドル(約47億円)と推定する作品だけではない。マンハッタン(Manhattan)グリニッジ・ビレッジ(Greenwich Village)の自宅とニューヨーク(New York)郊外にあるセカンドハウスも失う可能性があるのだ。

 リーボヴィッツ氏が自己破産となれば、その資産の分配については裁判所が決定することになる。

■協力申し出たゴールドマン・サックス

 このリーボヴィッツ氏の危機に対し、米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)が前週、救いの手を差しのべた。リーボヴィッツ氏の債務の一部を負担すると申し出たのだ。

 ACGはこれに対し異議を唱えているが、ゴールドマンにリーボヴィッツ氏への債権を売却する用意はあるとしている。

 リーボヴィッツ氏のキャリアは、他の誰にも似ていない。その作品には、ジョン・レノン(John Lennon)が射殺される前に撮影されたオノ・ヨーコ(Yoko Ono)とのヌードや、妊婦姿のデミ・ムーア(Demi Moore)のヌードなどもある。

 こんな華やかな世界にいながらも、リーボヴィッツ氏には金儲けの才覚はなかったようだ。

 1980年代、米金融・旅行大手アメリカン・エキスプレス(American Express)の広告写真の撮影を依頼された際、同社にクレジットカード作成を申し込んだが拒否されていた過去が明らかになった。

 ニューヨークのおしゃべり好きたちは、リーボヴィッツ氏の転落ぶりに驚き、不良債権危機と全国的な不景気の最新の犠牲者だと話している。

 ニューヨーク・マガジン(New York Magazine)は、リーボヴィッツ氏の完ぺき主義や、2004年に死亡した恋人のスーザン・ソンタグ(Susan Sontag)を喜ばせるためだったパリ(Paris)・セーヌ(Seine)川沿いのアパートなど派手好きな側面について長い記事を書いている。

 ヴォーグ(Vogue)誌のアナ・ウィンター(Anna Wintour)編集長は、あるドキュメンタリー映画の中で、「経費というものはリーボヴィッツ氏の頭の中にはないが、それはそれでいい。最後には、他の誰にもできないような作品を撮ってくれるから」と語っている。 (c)AFP/Luis Torres de la Llosa

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