サッカーと「呪術」の根深い関係、ケニア
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【6月30日 AFP】ケニア・モンバサ(Mombasa)の泥で作られた伝統的な小屋が立ち並ぶある集落。その1つの小屋の中で火がたかれ、あぐらをかいた2人の年配の男が「仕事」に没頭している。1人の男が白い砂で覆われた黒板にアラビア文字を刻むと、突然、「ヤラビ!」と叫んだ。この様子を、部屋の隅から、かたずをのんで見守っているのは、英イングランド・プレミアリーグ、アーセナル(Arsenal)の熱狂的なファンである地元の若者たちだ。この地方屈指の呪術師ムゼー・シャハ(Mzee Shaha)に、この4シーズン優勝を逃しているアーセナルの将来を占ってもらっているのだ。
このような光景は、この地域のサッカーファンの間では日常的に見られるものだ。ケニアの沿岸地方では、現在も呪術が広く行われている。呪術とは伝統的な薬を使った治療に過ぎないと言う人がいる一方で、不可解な死や事故は呪術によるものだと信じている人もいる。
ともあれ、サッカークラブの幹部も選手も試合の「勝利」を呪術師に頼りすぎる傾向が、この地方のサッカーを一種の「オカルティズム(超常現象)」に変質させている。ある審判は、「非常に迷信深い人びとが多い沿岸地域のサッカーは、呪術師なしではやっていけない」と言い切る。
■タンザニアのサッカー試合での珍風景
このような呪術盲信傾向は、ケニアに限ったものではない。
ムゼー・シャハと助手のムゼー・シャリフ(Mzee Shariff)は、タンザニアのザンジバル(Zanzibari)島近くに位置するトゥンバトゥ(Tumbatu)島の出身。2人は、アフリカ東部と中部で活況を呈しつつある呪術ビジネスの最前線で活躍する。
2004年9月に行われたタンザニア国内サッカーリーグの優勝クラブが決まるヤンガ(Yanga)対シンバ(Simba)の試合開始前、ある風変わりな儀式がみられた。シンバの選手たちが、相手側のゴール付近に奇妙な粉末と生卵をばらまいた。これに対しヤンガ側は、選手2人をピッチに送り出し放尿させた。
両チームの行為について、タンザニアサッカー協会(Football Association of Tanzania)は、「容認できない」として、双方に500ドル(約5万円)の罰金を課した。ちなみに試合の結果は2-2の引き分けだった。
■現代呪術は「遠隔操作」が可能
かつて、サッカーにまつわる呪術といえば、ヤギやウシ、ヘビなど動物の血をグラウンドにまいたり、死体置き場などからくすねてきた人間の身体の一部をグラウンドに埋めるなどしていたものだ。
しかし、ケニア沿岸地域のサッカークラブで「雇われ呪術師」を務めるジュマ(Juma Mohammed Mwanachuwoni)さんによると、現在では、わざわざ現場まで行く必要はないのだという。遠隔操作が可能だからだ。「木の幹に(対戦相手チームの)スター選手たちの名前を書き、それを黒い布で覆う。すると、その選手たちは試合でボールが見えなくなるというわけさ」
また、審判の判断を惑わせ、ひいきのチームを勝利に導くための「お守り」もあるという。
なかには、呪術料の支払いを渋るチームもあるが、こうした場合、「呪い」は自チームに降りかかり、試合には勝てない仕組みになっているという。
■呪術を恐れて有力選手が国外流出
ケニアのサッカークラブ関係者は、こうした実態を公式には明らかにしていないが、ある関係者は、優秀な選手が呪術のターゲットにされる傾向があり、これを恐れたり嫌って国外に去る選手もいるという事実を明かした。
実際、ケニアでは「Feisal FC」「Mombasa Wanderers」「Mwenge」などの国内クラブが、近年になって閉鎖に追い込まれ、「Bandari」や「Coast Stars」は選手の大量流出に見舞われている。そうした選手の中には、チームを去る理由として同地方の「オカルト的」雰囲気を指摘する者も少なくない。
■呪術のために財産を投げ打つサポーター
一方、ケニアのサポーターも、チームの勝利を過度に呪術に頼るという現実がある。あるスポーツジャーナリストは、「彼らは、財産や土地の権利や担保を売ってまで、呪術師のもとに通う。試合の結果に、大金を賭けているからだ」と、呪術盲信の危険性を指摘する。ひいきのチームが負けた場合には、しばしば悲劇的な結末が待ち受ける。今年になって、サポーターの1人が首をつり、1人がインド洋に身を投げて自殺している。(c)AFP/Aileen Kimutai