【6月28日 AFP】40年前、米ニューヨーク・マンハッタン(Manhattan)の「ストーンウォール・イン(Stonewall Inn)」というゲイバーが突然、世界の注目を浴びた。

 1969年7月28日、グリニッジ・ビレッジ(Greenwich Village)のクリストファー・ストリート(Christopher Street)で、同性愛者たちのたまり場を強制捜査した警察に客たちが反発、5日間の暴動へと拡大した抵抗が、同性愛者たちの権利運動の火蓋を切った。

 警察の度重なる弾圧にゲイたちの怒りが爆発したこの事件は「ストーンウォールの反乱」「ストーンウォールの暴動」などと呼ばれている。「ストーンウォールはそこにいた全員にとって、それに街全体にとっても衝撃だった」と、当時16歳で騒動に加わったマーチン・ボイス(Martin Boyce)さんは言う。

 ゲイバーに対する捜索は当時、当たり前のことのように行われていた。しかし、事件の日、店内で警察が捜索を続ける間、外に集まった群集の緊張は高まり、ゲイたちの怒りはついに沸点を超えた。「あそこはわたしたちのストリートで、わたしたちが安心できる場だった。警察に苦しめられるのはもうごめんだった」(ボイスさん)

■同性愛者たちの意識を変換した画期的事件

 約200人の多くは若かったゲイ、レズビアン、ドラッグクイーンらが加わったこの暴動は、当時の反権威主義的な社会状況を考えれば起こるべくして起こったことだと、後に参加者や目撃者は回想する。

 ストーンウォールの前後には、そこかしこで革命が叫ばれていた。68年の世界各地での学生運動に続き、70年代に向かって米国ではブラックパワー・ムーブメント(Black Power Movement)、ベトナム反戦、ヒッピーによるカウンターカルチャー運動がうねった。

 やはりストーンウォールに参加したロバート・ブライアン(Robert Brya)さん(63)は「同性愛者でない者たちの世界でも、警察に対する嫌悪感があった。ヒッピーやブラックパンサー(Black Panther)の連中はもちろんね。自分たちがあるがままでいられるよう、支配層や警察に対抗して自由を求めようという革命的意識があった」と語る。

 暴動発生の夜は金曜であっという間に人が集まり、収拾がつかなくなったという。「みんなすごく解放感にあふれていたわ。笑ったり、警官をからかったり。次から次へいろんなことが起こった」

 報道記録によると、この夜、13人が逮捕され警官4人が負傷した。そしてこの後の4日間、警官隊は抗議するゲイたちと、一夜目と同じような激しい衝突を繰り広げた。

 しかし、この暴動が同性愛者の自尊心と権利の向上運動を生み出した。ストーンウォールの記念日には現在まで毎年5番街(Fifth Avenue)で「ゲイ・プライド・パレード(Gay Pride Day)」が続いている。

 28日に行われるパレードは、事件から40周年を迎える。パレード前後の期間、ニューヨーク公共図書館(New York Public Library)ではストーンウォールの暴動に関する資料展示も行っている。公共テレビでは2010年、暴動に関するドキュメンタリーも放映予定だ。

Stonewall: The Riots that Sparkled the Gay Revolution(ストーンウォール:ゲイ革命を輝かせた暴動)』の著者デビッド・カーター(David Carter)氏は、ストーンウォールをきっかけに同性愛者たちが自分たちの憤りやアイデンティティを表出させ、50年代以降細々と続いていた同性愛者の運動を一気に目覚めさせたという。「ストーンウォールによって、ひとつの小さな動きが大規模な運動に変わった。だから、ストーンウォールは米国の政治史の地図上に永遠に残る事件となった」(c)AFP/Luis Torres de la Llosa