【4月28日 AFP】インドネシア・バリ(Bali)島の文化は、観光リゾート地として急速に開発され変容してしまったが、バリ州の州都デンパサール(Denpasar)から北東約50キロのところにあるトルニャン(Trunyan)村では、800年以上もの間、まったく形を変えずに受け継がれている伝統を目の当たりにすることができる。

 バツゥール湖(Lake Batur)のほとり、アバン(Abang)山に隠れるようにあるこの村には、2006年にアスファルト道路が整備されるまで、ボートでしか入ることができなかった。

 この湖の沿岸をやや北上したところに、村の墓地がある。その中心には、空から降臨してジャワ(Java)の王子と結婚した女神の化身とされる「バニヤン」の大木がある。

 この村の人々は、ほかのヒンズー教徒の島民たちのように死者を火葬したり、埋蔵したりしない。死者をこの樹の下に寝かせ、そのまま放置するのだ。野生の動物に荒らされないよう、死体は竹の覆いの中に置かれる。そばには来世でも使ってもらおうと、故人の気に入りの品々が置かれるという。

 墓地には、この竹の覆い、つまり死体を置く場所が11人分用意されている。置き場所がすべてふさがった状態で新たに死者が出ると、その遺体は最も古い遺体と場所を交代し、場所をゆずった古い遺体の頭蓋骨は決まった石の上に並べられる。

 なお、ここに「放置される」ことが許される遺体は、自然死した既婚者のものだけに限られ、それ以外の人については近くにある別の墓地に埋葬されるという。

■しきたりの「いわれ」

 トルニャンの人々は、バリ島の先住民族「バリ・アガ(Bali Aga)」の子孫だといわれる。彼らは、隣の島であるジャワ一帯を13世紀後半から約200年間治めたマジャパヒト(Majapahit)王国の以前からあったヒンズー教の一種の教えに従っていた。 

 村の長老によると、後にバニヤンの樹に姿を変えることになる女神は、ジャワの王子と結婚して息子をもうけたが、この息子は女神の体から上り立つ香りが原因で死んでしまった。どうしても世継ぎが欲しい王子は、放置した死者から漂う腐臭ならば女神の香りを打ち消すだろうと思い、村人たちに死者の埋葬を禁止した。

 以来、死者は香木を意味するこの「Taru Menyan」の木の下に寝かされることになったという。

 実際、死体が埋葬ではなく放置されているにもかかわらず、この墓地には腐臭がまったく漂っていない。バニヤンの木が死臭を中和しているからだろうと村人は言う。村人たちはさらに、こうしたしきたりを少しでも破ると、村全体に大きな災厄が降りかかると信じている。(c)AFP/Presi Mandari