【4月25日 AFP】(写真追加)ゲーリー・チャン(Gary Chang )さん(46)は、32平方メートルの小さなマンションに暮らしている。だが、普通の部屋ではない。香港(Hong Kong)の著名な建築家であるチャンさんは、このマンションにサウナ室やホームシアターなどの「24の部屋」を作り出した。改装を重ねて、ワンルームにスイスアーミーナイフのような多機能性を持たせたのだ。

 世界一人口密度の高い都市、香港で暮らすため、限られたスペースをいかに効率的に使うか――チャンさんの改装はこの問題に対する回答だ。「誰でも自分の家をよく見れば、すでにあるものを最大限にいかして空間を有効活用できるはずだ」とチャンさんは話す。 

 改装では部屋の壁を取り払い、代わりにアコーディオン状のスライド式仕切りを天井の金属製レールからつり下げた。こうすれば、自由に仕切りを動かして様々な形のスペースを生み出せる。これらの仕切りは、服をしまう引き出しや洗剤の収納棚、数千枚にのぼるCDやDVDのラックを隠している。

 壁掛け式のテレビのそばにある取っ手をつかむと、突然壁が部屋の中央まで動き出し、折りたたみ式の調理台と飲み物が豊富にそろったミニバーが登場する。

 壁には一面に巨大なスクリーンがあり、リモコンのスイッチを押すと、大きな黄色の色つきガラスを使用した窓が現れる。厚い雲に覆われた日でも暖かな太陽の光が差し込んでいるような印象を与える。

■改装コンセプトは「必要は発明の母」

 チャンさんの改装コンセプトは「必要は発明の母」だ。この部屋は1960年代、香港のサイワンホー(Sai Wan Ho)地区に建設された19階建ての建物の一室だ。チャンさんは14歳のころからこのマンションに暮らしている。当時は家族6人で暮らしていたため何事も臨機応変にせざるを得なかったと言う。当時、このマンションには寝室3つと居間とダイニング食堂があり、3つの寝室のうち1つは3人の妹たちが、もう1つは両親が使っていた。残る1つもチャンさんの部屋ではなく、両親が他人に貸して収入を得ていた。チャンさんは居間か食堂で寝ていたという。

 香港は700万人が暮らす大都市だ。土地不足を反映して賃貸料は高騰を続けている。香港の住宅当局によると1平方メートルあたりの平均賃料は2002年から2007年の間にほぼ2倍に上昇した。

 チャンさんは香港大学(University of Hong Kong)で建築学を専攻し1987年に卒業した。その年に両親が別のもっと良い家に引っ越したため、両親の勧めに従ってこのマンションを購入し「自分の住まい」にした。

 その後30年近くで計4回の改装を実施。回数を追うごとに予算は増え、アイディアは革新的になっていった。かつて35万香港ドル(約440万円)相当の靴箱のようだったマンションは、130万香港ドル(約1600万円)近い価値を持つ小さな宮殿に生まれ変わった。

 裕福でない家族でも住居環境を改善することが可能だという証だ――部屋の改装を終えたチャンさんはこう考え、「My 32m2 Apartment: A 30-Year Transformation(私の32平方メートルのアパート―30年間の変遷)」という本を執筆した。この本が新しい住居のあり方に影響を与えるはずだと、チャンさんは自負している。(c)AFP

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