【1月24日 AFP】厳しい寒さの中、20日(日本時間21日未明)に行われたバラク・オバマ(Barack Obama)米大統領の就任式では4人の著名なクラシック音楽家の演奏が高揚感を盛り上げた。ただし、19世紀の讃美歌「Air and Simple Gifts」の生演奏を耳にすることができたのは音楽家の近くにいたオバマ新大統領らひとにぎりだけだった。

 他の出席者や一般市民が耳にした音楽はチェロのヨーヨー・マ(Yo Yo Ma)氏、クラリネットのアンソニー・マクギル(Anthony McGill)氏、ピアノのガブリエラ・モンテーロ(Gabriela Montero)氏、およびバイオリンのイツァーク・パールマン(Itzhak Perlman)氏の4人による事前の録音だったことが明らかになった。

 就任式実行委員会のキャロル・フローマン(Carole Florman)報道官はAFPの取材に、「会場の気温はマイナス7度と低く、凍えるような風も吹いていたので、通常の演奏をすることは不可能でした」と語った。

 フローマン氏は、「ピアノは(寒さで)調律が乱れるおそれがあり、マ氏とパールマン氏は弦の切断と音程の狂いを心配していました。また木管楽器のクラリネットも低い気温のなかでは質の高い演奏は難しいと考えられました」と述べた。また同氏によれば就任式で演奏する音楽家は例外なく事前に録音しているという。

 その一方でフローマン氏は、4人が実際に演奏を行ったことは事実であり、『口パク』のようなものとの指摘は不当であり、事実ではないとの考えを示した。

■万が一に備え常に事前録音

 気温と湿度が極端に低い環境でマ氏のチェロやパールマン氏のバイオリンのように200年から300年前に制作された弦楽器を演奏した場合、音色は全く輝きを失ってしまう。そのため真冬の屋外での演奏では、多くの奏者が自分のパートを録音しておくのだという。

 海兵隊音楽隊のクリスティン・マーゲン(Kristin Mergen)広報官は、「演奏者4人は実際に演奏しましたが、その音をマイクで拾うことはしませんでした。多くの聴衆が聞いた音楽はその時の状況で最高のものであり、式典で彼らが求めていたものでした」と今回の措置を擁護した。

 伝統的に米国大統領の就任式での演奏は、屋外での演奏で数百年の歴史とノウハウを持つ海兵隊の音楽隊と、楽器に比べて寒さに対応しやすい声楽家が担ってきた。それでも、女性ソウル・ボーカリストのアレサ・フランクリン(Aretha Franklin)さんは今回の就任式で「My country 'tis of thee」を歌うことの困難を訴えていた。

 海兵隊音楽隊の場合、どんな天候にも対応できるよう温風やその他のあらゆる寒冷対策をとる上に、事前の録音もするのだという。「もし楽器に万が一のことがあれば(米大統領の公式行進曲である)『Hail to the Chief』なしで式典をすることになりますから」(c)AFP