【12月23日 AFP】世界で最も有名なクリスマスキャロル「きよしこの夜(Silent Night)」は、今年のクリスマスイブで誕生から190年を迎える。

 この歌は、1818年12月24日の寒い夜、オーストリアの小村オーベルンドルフ(Oberndorf)の礼拝堂で初めて演奏された。歴史学者によると、この村の副司祭ヨゼフ・モール(Joseph Mohr)が、ナポレオン戦争後の貧困に苦しんでいた村の住民を慰めたいと考え、友人で教師をしていたフランツ・クサーヴァー・グルーバー(Franz Xaver Gruber)に頼んで、自分が以前書いた6行詩に曲を付けてもらい、それをクリスマスイブのミサでギターのみの伴奏で演奏したという。

 歌はたちまち評判になったが、長い間村の外に伝わることはなかった。だが、チロル(Tyrol)からオルガンを配達していた男性が村を通った際にその歌を書き留めて持ち帰ると、冬の間出稼ぎであちこちを旅しながら歌っていたチロルの歌手の間ですぐに大流行した。

 こうして「きよしこの夜」は、チロルの大衆歌となり、やがて世界中で歌われるようになった。1827年にロンドン(London)の王宮で、1831年にはモスクワ(Moscow)、1839年にはニューヨーク(New York)でも演奏されている。

 その頃までには、歌の起源はほとんど忘れられていた。モールも自分が作った歌が大流行していることを知らずに1848年に死去した。その後1854年、このクリスマスキャロルの作曲者が、オーストリアの作曲家フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(Franz Joseph Haydn)の弟で同じく作曲家のヨハン・ミヒャエル・ハイドン(Johann Michael Haydn)だということに落ち着きかけたところで、ようやくグルーバーが自分の曲だと気が付いた。

「きよしこの夜」は当時すでにドイツの教科書にも登場し、またカトリック教会でもプロテスタント教会でも歌われるようになっており、教会の布教活動によってさらに広まっていった。

 典型的なクリスマスキャロルとされるこの歌は現在、330か国語以上に翻訳され、社会的、宗教的および文化的な架け橋となっている。第1次世界大戦中の1914年のクリスマスイブには、ごく短時間ではあったが、この曲がきっかけで最前線での一時的な停戦が結ばれたという逸話もある。

「この歌はただ美しい。見事な簡潔さで、モーツアルトのようにすべての人に語りかけ、宗教をはるかに超えていく」と、現在のオーベルンドルフの主任司祭、ニコラウス・エルベル(Nikolaus Erber)氏は言う。

「きよしこの夜」が最初に歌われた当時の礼拝堂は取り壊されたが、同じ場所に新たに建てられた礼拝堂の前では毎年クリスマスイブに礼拝が行われ、アジア諸国を中心に世界各地から数千人もの旅行者が参列する。今年も1万人近くの参加者が見込まれている。(c)AFP/Philippe Schwab