「認知症患者は皮肉が分からない」、診断に活用の可能性も
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【12月15日 AFP】機知と言われる人間の知性のなかで「皮肉」は最も低俗な形態かもしれないが、一部の認知症患者が皮肉を認識できないことに着目したオーストラリアの科学者チームが、認知症診断にその成果を取り入れている。介護者の気分を察知できないなどといった認知症患者の行動やその原因の理解に役立つという。
ニューサウスウェールズ大学(University of New South Wales)の研究チームは、認知症のうち2番目に多い前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia、FTD)にかかっている65歳以下の患者たちの調査で、他人が皮肉を言っていることを患者が認識できないことを発見した。
皮肉を皮肉として認識するためには、それを話した人の言葉と声の調子にずれがあることを把握する能力が必要だ。しかし「認知症患者の症状の一つは、ユーモアを理解できなくなること。彼らが苦手なのは、言葉に二重の意味が込められた場合だが、(皮肉でなくても)ユーモアの多くにはそうした二重の意味がある」と、12日の英神経学誌「Brain」に掲載された論文の共著者ジョン・ホッジス(John Hodges)氏は言う。
チームはこの点に着目し、2006年から07年にかけてFTDの患者26人とアルツハイマー病(Alzheimer's Disease)の患者19人を対象に、俳優たちにまったく同じ台詞で、まったく異なる状況を演じてもらう実験を行った。ある設定では、俳優たちに誠実そうに台詞を読ませ、ほかの設定では皮肉や嫌みたっぷりに同じ台詞を読ませたうえで、患者たちにそのニュアンスが分かったかどうかを尋ねた。
例えば、週末の予定について夫婦が相談している場面で、自分の母親を呼ぼうと提案する妻に対し、夫が「そうだね、それはいいね。ご存じのとおり、ぼくは君のお母さんが大好きなんだ。きっと素晴らしい週末になるだろう」と言った場合、台詞の言葉はまったく同じでも、自然な語り口か、皮肉を込めた調子かによって意味合いが変わってくる。アルツハイマー病患者はこの違いを認識したのに対し、FTD患者は皮肉な調子をキャッチできなかった。
ホッジス氏は「FTDの患者たちは言葉を極めて文字通りに受け取る。字面が誠実であれば、そのとおりの意味で言われていると認識してしまう」という。
「ピック病」と呼ばれることもあるFTDは、何年もかけて徐々に知能低下が進行するという点ではアルツハイマー病と似ているが、アルツハイマー病とは異なる脳の部位に病変が現れる。ホッジス氏によると、初期は診断が極めて難しく、うつ病と見分けにくいし、その後も統合失調症や境界性人格障害と混同されやすい。
現行の認知症の診断テストを、より安価でより実施しやすい皮肉を応用したテストで置き換えることも可能かもしれないという。文化的に皮肉や嫌み、反語やアイロニーなどがあまり好まれない国でもこの診断法は使えるかとの問いには、ホッジス氏はテスト内容を変更すれば対応できるのではないかと答えた。(c)AFP/Julie Shingleton
ニューサウスウェールズ大学(University of New South Wales)の研究チームは、認知症のうち2番目に多い前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia、FTD)にかかっている65歳以下の患者たちの調査で、他人が皮肉を言っていることを患者が認識できないことを発見した。
皮肉を皮肉として認識するためには、それを話した人の言葉と声の調子にずれがあることを把握する能力が必要だ。しかし「認知症患者の症状の一つは、ユーモアを理解できなくなること。彼らが苦手なのは、言葉に二重の意味が込められた場合だが、(皮肉でなくても)ユーモアの多くにはそうした二重の意味がある」と、12日の英神経学誌「Brain」に掲載された論文の共著者ジョン・ホッジス(John Hodges)氏は言う。
チームはこの点に着目し、2006年から07年にかけてFTDの患者26人とアルツハイマー病(Alzheimer's Disease)の患者19人を対象に、俳優たちにまったく同じ台詞で、まったく異なる状況を演じてもらう実験を行った。ある設定では、俳優たちに誠実そうに台詞を読ませ、ほかの設定では皮肉や嫌みたっぷりに同じ台詞を読ませたうえで、患者たちにそのニュアンスが分かったかどうかを尋ねた。
例えば、週末の予定について夫婦が相談している場面で、自分の母親を呼ぼうと提案する妻に対し、夫が「そうだね、それはいいね。ご存じのとおり、ぼくは君のお母さんが大好きなんだ。きっと素晴らしい週末になるだろう」と言った場合、台詞の言葉はまったく同じでも、自然な語り口か、皮肉を込めた調子かによって意味合いが変わってくる。アルツハイマー病患者はこの違いを認識したのに対し、FTD患者は皮肉な調子をキャッチできなかった。
ホッジス氏は「FTDの患者たちは言葉を極めて文字通りに受け取る。字面が誠実であれば、そのとおりの意味で言われていると認識してしまう」という。
「ピック病」と呼ばれることもあるFTDは、何年もかけて徐々に知能低下が進行するという点ではアルツハイマー病と似ているが、アルツハイマー病とは異なる脳の部位に病変が現れる。ホッジス氏によると、初期は診断が極めて難しく、うつ病と見分けにくいし、その後も統合失調症や境界性人格障害と混同されやすい。
現行の認知症の診断テストを、より安価でより実施しやすい皮肉を応用したテストで置き換えることも可能かもしれないという。文化的に皮肉や嫌み、反語やアイロニーなどがあまり好まれない国でもこの診断法は使えるかとの問いには、ホッジス氏はテスト内容を変更すれば対応できるのではないかと答えた。(c)AFP/Julie Shingleton