【11月30日 AFP】脱色したブロンドの髪をとかしつけ、白いスーツに身を包んだ「ビリー牧師」(Reverend Billy)ことウィリアム・タレン(William Talen)さんは米国経済の危機に対し「買い物を止める」という斬新な解決法を唱えている。

 彼は本物の牧師ではないし、彼の率いる教会「チャーチ・オブ・ストップ・ショッピング(Church of Stop Shopping、『買い物を止めよう教会』の意)」も実際にある教会ではない。

 しかし、米国の小売業界にとって1年のなかで一番の繁忙期、クリスマス商戦の幕開けとなる感謝祭明けの金曜日、いわゆる「ブラック・フライデー」を迎えた28日、タレンさんは自分の呼び掛けこそ「リアルなメッセージだ」と力を込めた。

■何も買わない日、無買デーを「伝道」

 ビリー牧師はこの日、緑色のクリスマスの妖精に扮した約100人とブラス・バンドとともに、ニューヨークのユニオン・スクエア(Union Square)周辺で「無買デー(バイ・ナッシング・デー、Buy Nothing Day)」を広める宣伝デモを行った。

「買い物を止めて、みんなで踊ろう」。デモ隊が声をそろえると道行く人は楽しげに、出動した警官隊は困惑した顔で眺めた。

 デモは反資本主義を掲げる者が「鬼門」とみなすコーヒーチェーン大手スターバックスコーヒー(Starbucks)の前にたどり着き止まった。ここでビリー牧師が、説教スタイルよろしく身振りを交えて「みなさん、スターバックスをボイコットしましょう」と呼び掛けると、妖精たちは天に手のひらをかざすようにして「ボイコット、スターバックス、ボイコット、スターバックス」とくり返した。

■「消費主義の上に社会は築けない」

 国内の経済活動の三分の二を個人消費が占める米国で経済の原動力となっているのはショッピング・モールなどの小売施設だ。そして、ブラック・フライデーは小売業界とって非常に重要な1日。特に経済危機で顧客の足が遠のきがちな今年、各店は思い切ったバーゲン価格で客を呼び戻そうと必死だ。

「チャーチ・オブ・ストップ・ショッピング」の活動はこうした小売業界らの関心とはまったく離れたところにあるが、ビリー牧師らは今年目の当たりにした経済の崩壊によって自分たちの活動の正しさにいっそう確信を深めた。無買デーの動きは広まり、米国以外の国では29日に各地で行動が行われた。

 AFPのインタビューに対し、ビリー牧師は「ウォールストリートの金融業界から資金を調達したチェーンストアや大型ショッピングモールは、家族のきずなを壊して人びとを孤立させ、わたしたちの地球も痛めつけてきた。消費主義の上に社会を築くことはできない」と言い切る。

 抗議行動やデモでの演奏で知られるブラスバンド「ルード・メカニカル・オーケストラ(Rude Mechanical Orchestra)」の一員、ベス・ソプコ(Beth Sopko)さんは「ようやくみんな、ショッピングが救いにはならないってことに気付くのかもしれない」と述べた。

 紅白のテントが並ぶユニオン・スクエアのホリデー・マーケットには、クリスマスのギフトを買い求める人びとがあふれ無買デーの呼び掛けに気を留める人は少ない。それでも共感の声はいくつか聞かれた。

「お金を使うほど気分がよくなる、といったメッセージを僕たちは絶え間なく受け取っているけれど、それは嘘だ」と、ミネソタ(Minnesota)州から訪れた両親とともにスクエアに来た有機農法オーガナイザーの男性(26)。

 ニューヨーカーの57歳の女性は、最初は単なるクリスマスのバンド隊のひとつだと思ったが、メッセージを知って一理あると感じたという。教師から販売業に転身したこの女性は、昨今の経済不況で新たに職を探すのに苦労していると言う。

「何事においても節度が肝心だとは思う。必要のないものを買う誘惑に駆られるのはその通り。それでも買うのをピタっと止めることはできないのが問題、そうでしょう?」(c)AFP/Sebastian Smith