【11月11日 AFP】(写真追加)北朝鮮南西部の都市、開城(Kaesong)。厳重な警戒態勢が敷かれた韓国との軍事境界線から、わずかバスで30分の距離だ。だが、韓国からの観光客にとって、同地は単なる日帰りツアー以上の意味を持つ。開城の景勝地を訪れるだけでなく、北朝鮮の一般市民の厳しい現実生活を、かいま見られる貴重な機会なのだ。

 韓国からのツアーに参加した23歳の男性は、「北朝鮮では、時間が止まっているようだ」との感想をもらした。朝鮮半島が南北に分断されてから60年以上が経過し、「同じ民族でありながら、北朝鮮と韓国の人々は大きく変わった。ここ(北朝鮮)の人びとの表情は暗い。山には木もなく、道路を走る車もほとんどない」

 韓国の一般市民に初めて北朝鮮訪問の道が開かれたのは、韓国資本によるリゾートが北朝鮮南東部の金剛山(Mount Kumgang)にオープンしてからだ。このツアーでは、平壌(Pyongyang)観光が許可される場合もあった。

 だが、今夏、金剛山ツアーに参加していた韓国人女性が北朝鮮兵士に射殺される事件が発生。以来、金剛山ツアーは中断された状態で、現在、韓国の一般市民が参加できる北朝鮮ツアーは開城だけだ。

 ソウル(Seoul)から北へわずか70キロの距離にある開城観光が始まったのは2007年12月。以来、10万人あまりの韓国人が同地を訪れている。

 開城ツアーが、首都の平壌やリゾート地の金剛山を訪れるツアーと異なるのは、見どころが北朝鮮の一般住民の居住地内に点在していることだ。

 開城ツアーでは、高麗王朝時代(918-1392)の仏寺や遺跡、著名な滝などを訪れるが、同時に観光客は、燃料用の薪用に木を刈り取った後のはげ山、車両がめったに通らない道路、塗装の剥げかけたレンガ造りのアパートなどを目にすることとなる。通行人を見かけることもほとんどなく、たまに見かける住民は、くたびれた人民服姿だ。

 こうしたなかで、金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong Il)総書記や初代国家主席、故金日成(キム・イルソン、Kim Il Sung)親子をたたえるスローガンや壁画だけが、異彩を放っている。

 韓国側の統計によると、現在、韓国と北朝鮮との国民総所得の差は18倍も開いているという。さらに、長引く食糧不足による栄養不良で、北朝鮮の子どもの平均身長は韓国の子どもより14センチも低い。

 朝鮮戦争が勃発する以前まで開城に住んでいたという60歳の韓国人男性は、生家の跡を確かめたいと思い、ツアーに参加した。幼すぎて当時の記憶はあまり鮮明ではないといいながらも、あまりにもさびれた光景に、男性はかなりの衝撃を受けたようだ。「とても悲しい思いだ。たぶん、再びここを訪れることはないだろう」

 北朝鮮当局も、市民と韓国人観光客が接触しないよう神経をとがらせている。ツアーバスには常に警察車両が帯同し、バス1台ごとに北朝鮮ガイド3人が同乗。観光スポットなどで下車するたびに、観光客の単独行動がないよう目を光らせる。ツアーバスが立ち寄る先々には、時折り、武装兵士の姿も見える。

 ツアー参加に際しては、北朝鮮外で発行された新聞、雑誌などの印刷物、フィルムカメラ、パソコン、携帯電話、ラジオ、MP3プレーヤー、記憶媒体の持ち込みは禁止だ。

 写真撮影は、指定した場所でデジタルカメラのみ可能で、車内からの撮影は厳禁だ。

 ツアーからの帰路、北側出入事務所で、警察官が観光客の撮影画像を全てチェック。不適切と判断された写真は、その場で削除される。

 こうした制約にも関わらず、ツアーガイドを務める北朝鮮人男性は、北朝鮮観光は南北双方にとって利益となると、好意的な見方だ。「北朝鮮と韓国が力を合わせれば、世界で強大な地位を築ける」こう語る男性の胸元には、金日成初代国家主席のバッチが光っていた。(c)AFP