五輪と中国アートブームで文化崩壊、北京の「798芸術区」
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【6月2日 AFP】中国の首都・北京(Beijing)の「798芸術区」で英国出身のタムシン・ロバーツ(Tamsin Roberts)さんが2年前から経営していた画廊「レッドT」は最近、ブルドーザーで撤去されてしまった。この場所に6階建ての駐車場が建設されるためだ。
駐車場は、8月の北京五輪期間中に訪れる観光客の増加を当て込んだものだ。ロバーツさんは、芸術家やギャラリーに愛されてきたクリエイティブで先端的な街区が、観光名所の一つになり下がってしまうと嘆く。
「ここに初めて来たときには、ギャラリーよりもアーティストの数の方が多く、アングラな雰囲気だった。でも今ではオルタナティブとはほど遠い。新生798区は多くの人に愛されるだろうが、同時に(賃貸料が)とても高くなり、排他的になるだろう。当局は街を磨き上げた挙句、訪れる人を減らしている」
彼女の画廊の賃貸期間は12月までだが、当局からは1か月以内の立ち退きを命じられたという。「彼らは798区の創造的だったアート同様に、内部崩壊を始めている」
■海外の中国アートブームが及ぼした798芸術区の商業化
昔この地域に建っていた電子機器工場「798」にちなんで名付けられた798芸術区。この地区の商業化は、中国人アーティストによる絵や彫刻が世界のオークションを席巻するようになったことと軌を一にしている。
1989年の天安門事件をモチーフにした画家の岳敏君(Yue Minjun)の作品『Execution(処刑)』は、前年ロンドンで行われたサザビーズ(Sotheby’s)のオークションで、290万ポンド(約6億9000万円)で落札された。中国現代アート作品としては過去最高額だった。その5年前には、岳の作品はようやく1万ドル(約100万円)で落札される程度だった。こうした「評価の急上昇」により中国の現代アートが、美術愛好家だけでなく投資家も引きつけているのは、決して珍しい現象ではない。
アーティストや画廊がこうした高値に喜ばないはずはないだろう。しかし一方で、著名建築家でキュレーターの艾未未(Ai Weiwei)氏はそうした資金による「弊害」を指摘する。「わたしたちは最悪の文化、最悪の創作時期に生きている」
798芸術区は過去10年間、北京の創作ブームの中心地だった。かつての工場地帯に設けられた作業場は、広くて手軽で安い場所を求めていたアーティストたちのたまり場となった。
しかし、今ではしゃれたカフェや派手なギャラリーが立ち並び、目が飛び出るほど高値の有名アーティストたちの作品で埋め尽くされている。アートブームが賃貸料を押し上げ、アーティストたち自身や小さなギャラリーの多くは、ここを退去せざるをえなくなった。
■アーティストは郊外に逃避、中国アートは世界に進出
スポーツメーカーのナイキ(Nike)は最近、この地区のビルの一つをバスケットボールの伝説的選手、マイケル・ジョーダン(Michael Jordan)に関する特設展示場に改装した。ジョーダンゆかりの品々の展示のほか、ダンクシュートを連続して映し出す巨大スクリーンも備え付けられている。もともとこの一画を占めていたアーティスト・スタジオとは似ても似つかない代物だ。
芸術区の野心のスケールは明らかに変わり、周辺は大型建設プロジェクトに乗っ取られつつある。
先のロバーツさんのギャラリー跡地の向かい側には、イベリアン・センター・フォー・コンテンポラリー・アート(Iberian Centre of Contemporary Art)が出資する1500万ドル(約15億7000万円)相当の新センター建設プロジェクトが進む。これは3つの巨大展示スペース、図書館、売店やカフェを有する798区内の大型ギャラリー、「ユーレンス現代美術センター(Ullens Centre for Contemporary Art、UCCA)」の成功に追随しようというものだ。
UCCAの創設者、ガイ・ユーレンス(Guy Ullens)氏は、798の大成功がアーティストのモチベーションに関する疑問を生んでいる点は認めつつも、作品のクオリティーを守るのはあくまでもギャラリーだと主張する。
中国でキュレーター兼アート・ライターとして20年間活動してきた米国人、メグ・マッジオ(Meg Maggio)氏は、798芸術区の賃貸料が上がり、街並みも変化してしまったため、計画していたファインアート・ギャラリーを同地区ではなく、新たな芸術地域として成長しつつある郊外の草場地(Caochangdi )村に創設した。「(798に)来ると、いまやショッピングモールに来たように感じる。ますます繁華街かビジネス街のようになってきている」
一方でマッジオ氏は、アート界の活況は中国のアート市場の成熟も意味していると指摘する。「中国アートはローカルシーンから完全に国際シーンへ進出した。北京はロンドン(London)、ロサンゼルス(Los Angeles)、ベルリン(Berlin)に匹敵するアート市場であり、798はその重要な一翼を担っている」(c)AFP/Guy Newey
駐車場は、8月の北京五輪期間中に訪れる観光客の増加を当て込んだものだ。ロバーツさんは、芸術家やギャラリーに愛されてきたクリエイティブで先端的な街区が、観光名所の一つになり下がってしまうと嘆く。
「ここに初めて来たときには、ギャラリーよりもアーティストの数の方が多く、アングラな雰囲気だった。でも今ではオルタナティブとはほど遠い。新生798区は多くの人に愛されるだろうが、同時に(賃貸料が)とても高くなり、排他的になるだろう。当局は街を磨き上げた挙句、訪れる人を減らしている」
彼女の画廊の賃貸期間は12月までだが、当局からは1か月以内の立ち退きを命じられたという。「彼らは798区の創造的だったアート同様に、内部崩壊を始めている」
■海外の中国アートブームが及ぼした798芸術区の商業化
昔この地域に建っていた電子機器工場「798」にちなんで名付けられた798芸術区。この地区の商業化は、中国人アーティストによる絵や彫刻が世界のオークションを席巻するようになったことと軌を一にしている。
1989年の天安門事件をモチーフにした画家の岳敏君(Yue Minjun)の作品『Execution(処刑)』は、前年ロンドンで行われたサザビーズ(Sotheby’s)のオークションで、290万ポンド(約6億9000万円)で落札された。中国現代アート作品としては過去最高額だった。その5年前には、岳の作品はようやく1万ドル(約100万円)で落札される程度だった。こうした「評価の急上昇」により中国の現代アートが、美術愛好家だけでなく投資家も引きつけているのは、決して珍しい現象ではない。
アーティストや画廊がこうした高値に喜ばないはずはないだろう。しかし一方で、著名建築家でキュレーターの艾未未(Ai Weiwei)氏はそうした資金による「弊害」を指摘する。「わたしたちは最悪の文化、最悪の創作時期に生きている」
798芸術区は過去10年間、北京の創作ブームの中心地だった。かつての工場地帯に設けられた作業場は、広くて手軽で安い場所を求めていたアーティストたちのたまり場となった。
しかし、今ではしゃれたカフェや派手なギャラリーが立ち並び、目が飛び出るほど高値の有名アーティストたちの作品で埋め尽くされている。アートブームが賃貸料を押し上げ、アーティストたち自身や小さなギャラリーの多くは、ここを退去せざるをえなくなった。
■アーティストは郊外に逃避、中国アートは世界に進出
スポーツメーカーのナイキ(Nike)は最近、この地区のビルの一つをバスケットボールの伝説的選手、マイケル・ジョーダン(Michael Jordan)に関する特設展示場に改装した。ジョーダンゆかりの品々の展示のほか、ダンクシュートを連続して映し出す巨大スクリーンも備え付けられている。もともとこの一画を占めていたアーティスト・スタジオとは似ても似つかない代物だ。
芸術区の野心のスケールは明らかに変わり、周辺は大型建設プロジェクトに乗っ取られつつある。
先のロバーツさんのギャラリー跡地の向かい側には、イベリアン・センター・フォー・コンテンポラリー・アート(Iberian Centre of Contemporary Art)が出資する1500万ドル(約15億7000万円)相当の新センター建設プロジェクトが進む。これは3つの巨大展示スペース、図書館、売店やカフェを有する798区内の大型ギャラリー、「ユーレンス現代美術センター(Ullens Centre for Contemporary Art、UCCA)」の成功に追随しようというものだ。
UCCAの創設者、ガイ・ユーレンス(Guy Ullens)氏は、798の大成功がアーティストのモチベーションに関する疑問を生んでいる点は認めつつも、作品のクオリティーを守るのはあくまでもギャラリーだと主張する。
中国でキュレーター兼アート・ライターとして20年間活動してきた米国人、メグ・マッジオ(Meg Maggio)氏は、798芸術区の賃貸料が上がり、街並みも変化してしまったため、計画していたファインアート・ギャラリーを同地区ではなく、新たな芸術地域として成長しつつある郊外の草場地(Caochangdi )村に創設した。「(798に)来ると、いまやショッピングモールに来たように感じる。ますます繁華街かビジネス街のようになってきている」
一方でマッジオ氏は、アート界の活況は中国のアート市場の成熟も意味していると指摘する。「中国アートはローカルシーンから完全に国際シーンへ進出した。北京はロンドン(London)、ロサンゼルス(Los Angeles)、ベルリン(Berlin)に匹敵するアート市場であり、798はその重要な一翼を担っている」(c)AFP/Guy Newey