【4月30日 AFP】エジプトの映画俳優アムール・ワケド(Amr Waked)は、AFPとのインタビューで、エジプト政府がエイズ(AIDS)感染者を投獄している実態について、「常軌を逸している」と非難した。

 カイロ(Cairo)の裁判所は9日、HIV感染者4人を含む5人に対し、同性愛を実践した「放蕩罪」で禁固3年の刑を言い渡した。5人はHIV検査を強制され、結果が判明するまで病院のベッドに手錠でつながれていたという。

 イスラエル人と共演したことを理由に本国エジプトでメディアの槍玉に挙げられた過去があるワケドは、こうした事態について、「感染者に汚名を着せても、エイズ撲滅の助けにはならない」と非難した。

 エジプトでは、同性愛は違法行為とは見なされていないが、1961年の法律に規定された「放蕩罪」が適用される傾向にある。なお、エジプトではエイズについて語るのはタブー視されている。

■同性愛者への偏見がエイズ撲滅を阻む

 国内で同性愛者を擁護する数少ない人権団体の1つEgyptian Initiative for Personal Rights(個人的権利のためのエジプト・イニシアチブ)によると、前年10月以来、このほかにも7人の同性愛者が逮捕され、HIV検査を強制された上に病院のベッドに手錠で拘束された。うち4人が禁固1年の刑を受けたという。

 だが、同団体はワケド同様に、同性愛者への弾圧というよりは「エイズ患者への弾圧」だと主張する。

 ワケドは、2001年にカイロ市内のナイトクラブで同性愛者52人が逮捕され、うち半数が放蕩罪とイスラム教侮辱罪で起訴されたことにも触れ、「エイズへの無知には宗教的偏見も混じっている。エイズ患者への有罪判決は偏見を深め、エイズ撲滅を一層困難にする」と語った。

 先ごろ国連親善大使に任命されたエジプト人俳優のKhaled Abul Nagaも、同意見だ。「今回の有罪判決で、エイズが病気ではなく犯罪であるとの考え方がまん延してしまう。みんな、こわがって、HIV検査を自主的に受けなくなるだろう」

■「エイズは性倒錯者への罰」

 だが、宗教界の見方は違う。「エイズは、性倒錯者を罰するために神から下された病気」だとスンニ派の最高指導者Mohammed Saleh師は言う。

 エジプト政府は長年、エイズ患者の存在をひた隠しにしてきた。エイズ感染者数は、公式の数字ではいまだに「ゼロ」だ。だが、国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、エジプトにおける感染者数を2000人から1万7000人、増加率も著しいと見ている。

 だが、ワケドは希望を捨てていない。「エジプトは前に進もうとしています。あらゆる世代がそれを待っているのです」(c)AFP/Alain Navarro