【4月8日 AFP】前年末の大統領選後、結果をめぐって暴動が広がり、これまでに約1500人が犠牲となっているケニア。この暴動で世界レベルのランナー2人が殺害されたほか、複数の大物選手が資金を提供して民族間対立をあおっているとのうわさもある中、8月の北京五輪は「国の再団結」を内外に示す重要な試金石となる。

 選手たちは「民族を超えた団結」によりメダルを故国に持ち帰りたいと口をそろえる。1万メートル走金メダル保持者のモーゼス・タヌイ(Moses Tanui)氏は「選手はみんな平和を愛するピースメーカー。トレーニング時は民族の垣根などない」と語る。

 世界クラスの選手の大半は、暴動が最も激しかった西部のリフトバレー(Rift Valley)州出身で、カレンジン(Kalenjin)人だ。カレンジン人は、大統領選では野党候補を応援。この候補が最大民族キクユ(Kikuyu)出身の現職ムワイ・キバキ(Mwai Kibaki)大統領に敗れたとの報のあと、大規模な暴動が発生した。

 選手のトレーニングセンターは、リフトバレー州のエルドレット(Eldoret)近辺に集中している。エルドレットでは1月1日に教会が放火され30人が死亡した。同日、1988年のソウル五輪で男子1600メートルリレーに出場したルーカス・サング(Lucas Sang)氏が暴動に巻き込まれ死亡する事件もあった。1月21日には、ケニアを代表するマラソン選手、Wesley Ngetich氏(34)が毒矢で殺害された。

 男子マラソン金メダル候補のルーク・キベト(Luke Kibet)選手も襲われ、九死に一生を得たとの報道がある。

 こうした状況の中、マラソン選手にとっては練習が困難になってきている。練習に適した土地で武装集団が徘徊(はいかい)しているためだ。

 さらに、これまで政治とは無関係だったケニアスポーツ界の「ある疑惑」が指摘されるようにもなった。ベルギーに本部を置く非政府系シンクタンク「国際危機グループ(International Crisis GroupICG)」が2月21日、「複数の陸上選手がカレンジン人に資金を提供し、キクユ人への暴力を助長している」との情報があると明らかにしたのだ。ICGの報告書は「キクユ人の所有する農地や領地を奪うことが目的」としている。

 選手たちはただちに記者会見を開き、「そのような事実はない」と否定。カレンジン人の選手がキクユ人の選手の命を救った例もあると語り、国の団結を強調した。「選手は1つの旗のもとで戦う。選手は、カレンジン人としてではなくケニア人として見られるのだから」

 とはいえ、暴動の行方はスポーツ界に確実に影響を及ぼしている。3月7、8日の五輪選考会は当初キスム(Kisumu)で開催が予定されていたが、スタジアムが暴徒に占拠されたため首都ナイロビ(Nairobi)に場所を移された。(c)AFP/Aileen Kimutai