【3月27日 AFP】ミュージシャンの「ファッツォ(Fatso)」(本名Samm Farai Munro)は、ジンバブエが独立した年の1980年に生を受けた。それから28年。植民地時代を知らない世代に属する彼は、あえて29日の総選挙を前に、『House of Hunger』というタイトルのCDをリリースした。かつては「独立後の優等生」を誇ったジンバブエが今直面している危機を歌う。

「Chabvondoka(地元の言葉で「すべての地獄が解き放たれた」の意)」というグループと共同で作成されたCDには、不満や幻滅、そして強圧的な政府を皮肉る言葉が並ぶ。例えば、「議会制民主主義のうしろで太ったシェフたちが料理をしてる。飢饉の中で」という歌詞。

 CDは、トーマス・マプフーモ(Thomas Mapfumo)以来の革命的なアルバムとされている。ファッツォは、英国植民地だった「ローデシア」時代の政治的・経済的抑圧に対する悲しみと怒りを芸術の形で表現する大勢のアーチストの1人。「これは、大声で叫ぶ抵抗の形だ」とファッツォは語る。

 詩人のレイモンド・マジョングウェ(Raymond Majongwe)は最近、「Dhiziri paChinhoyi(Chinhoyiのディーゼル)」というアルバムを発表した。北部のChinhoyiという町で「岩から軽油が湧き出ている」という女性の話を真に受けるロバート・ムガベ(Robert Mugabe)大統領をおちょくる内容だ。「わたしは、与党ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF)の蛮行や不正を国民になり代わって勇気をもって語る」とマジョングウェ。

 前週首都ハラレ(Harare)で開催された詩の式典では、Fortune King Rozvi Muchuchutiが、さまざまな権利が侵害されていく状況をうたった詩を朗読した。「われわれはむっつりと墓場に向かい、ジンバブエドルの力を埋葬する。われわれ人民の自信、アフリカ人であるという誇りを埋葬する」という内容だ。

■芸術への弾圧をものともせず

 大統領を侮辱した者は1年間の刑務所行きとなる。街頭デモは治安部隊に鎮圧される。そんなジンバブエで、「汚れたおむつを替えよう」と暗に国の変革を訴えた詩人チリクレ・チリクレ(Chirikure Chirikure)の歌「おむつ」はもちろん放送禁止になっている。 

 前年ブラワヨ(Bulawayo)で演じられた「野党指導者襲撃事件」を風刺した劇「The Good President」は、治安部隊により中止を余儀なくされた。前年末には、最大野党によるムガベ大統領暗殺計画に材をとった劇「The Final Push」のキャストが逮捕されるという事件があった。

 経済の悪化、暴力の横行、人権の侵害ーこうした状況を憂う若手の詩人たちは前年、「人権のためのジンバブエ詩人(Zimbabwe Poets for Human Rights)」を結成した。

 だが、困難が創造力をかきたてるということもあるらしい。チリクレ・チリクレは次のように語っている。「環境は良くないし人々は本を買うことも劇を観ることも経済的にままならない。でもこういったことが、より高度な創造性へと、わたしたちのエモーションを高めている」(c)AFP