【3月17日 AFP】電気化学分野の先駆者でアーク灯を発明した英国の化学者、ハンフリー・デービー(Humphry Davy、1778-1829)にナポレオンから送られた勲章メダルを、デービーの妻が海に投げ捨てていたことが、子孫の話から明らかになった。

 ナポレオンは1807年、自身の手でデービーに勲章を授与することを考えていたが、フランスは当時英国と戦争中だったため一度は授与を断念した。結局、デービーが勲章受章の報をうけたのは数年後のことで、デービーは戦火真っ盛りの1813年、当時助手だった化学者、マイケル・ファラデー(Michael Faraday)を伴ってフランスに赴き、ナポレオンの妻、マリールイーズから勲章を受け取っている。

 英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)が14日、この勲章メダルの返還をデービーの子孫に求めたところ、デービーの妻ジェーンが夫の死後、南西部コーンワル(Cornwall)沿岸から海に投げ捨てていたことが分かったという。

 遠縁にあたるマーガレット・トットルスミス(Margaret Tottle-Smith)さんが、英国放送協会(BBC)のラジオ放送で「とても悲しい話」として語ったところによると、ジェーンは恐らく、メダルにまつわる辛い思い出を捨て去りたかったのだという。

 デービーは若き未亡人だったジェーンと結婚。裕福な家庭の出身だったジェーンは社交界を好みパーティーや舞踏会を楽しむ女性だった。しかしデービーの死によって、ジェーンは再び子どももいない孤独な未亡人となり、華やかな生活を続ける金銭的余裕もなくなった。

 ジェーンにとって、デービーが勲章メダルを受け取るためフランスに赴いたことは、良い思い出ではなかったようだ。マーガレットさんは、当時の敵国だったフランスから授与されたメダルはジェーンにとって「不名誉で忌むべきもの」だったと考えている。

「ある日、辛い思い出を捨て去ろうと思い立ったジェーンは、メダルを握りしめマウント湾(Mounts Bay)に向かい、沿岸の崖のどこかから海にむかってメダルを投げ捨てた」(マーガレットさん)

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