【3月11日 AFP】第二次世界大戦時のナチス(Nazi)・ドイツのアウシュビッツ(Auschwitz)強制収容所に収監された唯一の英国人、レオン・グリーンマン(Leon Greenman)氏が7日に死去した。97歳だった。死因は不明。

 グリーンマン氏は1910年ロンドン(London)に生まれ、5歳の時に家族とともにオランダに移住。1935年にオランダ人のエスター・バンダム(Esther van Dam)さんと結婚し、書店業を営んだ。

 ロッテルダム(Rotterdam)での幸せな生活は、ナチスのオランダ侵攻により打ち砕かれた。1943年、一家は強制収容所に送られ、収容所を転々としたのち、ポーランドのアウシュビッツ収容所に収監される。

 1940-45年に推定110万人が命を落としたとされるアウシュビッツで、グリーンマン氏は妻と息子を失った。収容所で建設作業員兼理髪師として働いていたグリーンマン氏は、「生きてここを出られたらナチス時代に起こったことを世界に伝える」と自ら誓いを立てた。

 そして終戦翌年の1946年、その誓いを実行に移す。人々に体験を語り始め、『An Englishman In Auschwitz(アウシュビッツに収監された英国人)』という本も執筆。グリーンマン氏はその中でこのようにつづっている。

「女たちは男たちから引き離された。妻と息子は20メートルほど離れた、女たちの列のほうに向かった。わたしは妻を見失うまいとした。青い照明のおかげで、妻の姿ははっきりと見えた。向こうからもこちらがちゃんと見えていたのだろう。投げキスをして、わたしによく見えるように、息子を抱き上げてくれたから。あのとき妻の脳裏に何がよぎったのか、わたしには知るよしもない。たぶん、長い旅がようやく終わると思ってほっとしていたことだろう」

 1995年には、ロンドンのユダヤ博物館にグリーンマン氏の生涯に関する展示館が開館。同氏は毎週日曜にここを訪れ、訪問客らと言葉を交わしていた。

 1998年には、英エリザベス女王(Queen Elizabeth II)から表彰されている。(c)AFP