【2月8日 AFP】中国系インドネシアの若者には、中国の伝統を重視せず、福音主義キリスト教を信仰する人が増えている。

 中国系インドネシア人のAnatasha Ekaさん(18)は祖母からお年玉をもらい、旧正月には寺院にお参りに行く。高校を卒業したばかりのEkaさんは、3年前にキリスト教に改宗したが、洗礼を受けたのは去年のことだという。「祖母はまだ怒っている。祖母は中国の伝統が薄れつつあるのを心配している」と語る。

 世界で最多のイスラム教徒を抱えるインドネシアでは、キリスト教徒と仏教徒はともに少数派だ。スハルト政権(1968-98年)時代に中止されて以来、旧正月が再び祝日になってからまだ5年しか経っていない。

 海外に住む中国人の例に漏れずインドネシアでも、中国の伝統を重んじる気持ちは、宗教を超えて中国系住民の団結を強め、他民族と区別する重要な要素となっている。

■中国系住民に増えるキリスト教徒

 ジャカルタのビジネス街にあるJakarta Praise Community教会(JPCC)で1日5回行われる日曜礼拝には、若者を中心とした6000人ほどが集まる。

 教会の伝道師Sidney Mohedeさん(35)によると、信者の約半数は中国系だという。演奏家・音楽プロデューサーでもある中国系インドネシア人のMohedeさんは、10代を米国で過ごしたが、大学を中退して帰国、聖書朗読会を始めた。初めは60人ほどの小さな会だったが、9年間で劇的に信者が増え、同時に音楽ビジネスでも収益が上がるようになった。

 Mohedeさんはアメリカ訛りの英語で「(スハルト)政権にはいろんな意味で大きな被害を被った。政府は中国系住民が不安になることをたくさんした」「若い世代を見ていると、平等と、『教会』『国家』『世代』といった名の下での団結を受け入れることに抵抗はなさそうだ」と語った。

■スハルト政権時代の迫害

 中国系文化機関Chinese Heritage Centreの責任者Leo Suryadinataさんは、商才があるとされる中国系住民は、スハルト元大統領の強権統治下、1990年代の経済不況に怒りを募らせたインドネシア人からの攻撃や、同化政策といった困難に直面したと指摘する。また、中国語の学校とメディア、中国系の団体が一切禁止され、中国系住民は「インドネシア人化」したという。

■「中国人らしさ」の変化

 シンガポールにある東南アジア研究所(Institute of South East Asian Studies)の人口統計学者Aris Anantaさんによると、自分自身を「中国人」と感じる人の割合は2000年の1.20%から2005年の1.06%に減少している。この間、中国系インドネシア人の間では出生率の減少と国外流出が見られた。

 スハルト氏失脚後には、儒教、道教、風水関連の商品が流行する一種の復興運動が現われたが、Anataさんは「中国人らしさは必ずしも仏教を意味するわけではない」と指摘する。

■仏教徒の減少とキリスト教の台頭

 イスラム教、キリスト教、ヒンズー教など国内で認められている宗教の中で、人口比で減少しているのは仏教だけだ。1971年には0.92%だったのが2000年には0.84%まで減少。数字上は60万人の増だが、同時期にキリスト教徒は約2倍の1790万人にまでふくれあがった。同国の人口は2億3400万人だ。

 Anataさんは、中国系住民は教育水準が上がるほど、「近代的な」キリスト教に宗旨替えする人が増えるのではないかと考えている。

■臨機応変の信仰

 JPCCの伝道師Joe Sentosoさん(27)は、米国の大学時代に仏教の信仰を捨てキリスト教徒になった。「両親はわたしが何をやっているか理解に苦しんでいるようだが、わたしは、これは単なる信仰ではなく、新しい世代のために捧げている素晴らしい仕事だと言い続けている」

 Sentosoさんは、旧正月には両親と寺院を詣で、亡くなった祖父母に鶏と豚をお供えする予定だ。「両親は、自分たちが死んだらこういった習慣はなくなるだろうと思っている。ぼくもこういう習慣を理解できない」とSentosoさんは語った。(c)AFP/Belinda Lopez