【1月23日 AFP】イラクの首都バグダッド(Baghdad)のカラダ(Karrada)地区に中華料理店がオープンした。店先に掲げられた看板は温かい黄色で塗られ、アラビア語と中国語の両方で「中華料理店」と書かれている。まず見逃すことはない。

 細いジーンズに身を包み、そよ風に髪をなびかせながら店先を掃除する若い女性は、たどたどしい英語で「いらっしゃいませ!」と元気に声を掛ける。Yanさんだ。

 店で働く4人はみな中国人。Yanさんの夫で店のオーナー兼接客担当のTsaoさん、調理担当のLoさんとWoさん。Yanさんは掃除を担当する。

 バグダッドに住んで2年になる40代のTsaoさんは一番のベテランだ。「以前は中国製品を売る店で働いていた」とTsaoさんは語る。同市を襲った武力衝突で店は閉店に追い込まれた。職を失ったTsaoさんは故郷の中国・雲南(Yunnan)省南部に戻り、「イラク・ドリーム」の計画に参加するよう、妻と2人の友人を説得した。

 4人は1週間前に店をオープンしたばかりだ。「バグダッドで唯一の中華料理店」とTsaoさんは胸を張る。

 内装は簡素だ。プラスチック製のテーブルとイスがしつらえられ、天井からは赤い紙製の小さな中国ちょうちんがぶらさがっている。ピンク色の壁にはファイティングポーズをとる映画スター、ジャッキー・チェン(Jackie Chan)とブルース・リー(Bruce Lee)のポスターが張られている。

 調理は客の前に設けられた小さなスペースで行われる。料理は店で食べることも持ち帰ることも可能だ。

 黒い毛糸の帽子をかぶったWoさんは慣れた手つきで点心やホウレンソウを調理する。出来上がった料理が安い皿の上に並べられる。「本日の定食」のメニューは「点心、鶏もも肉の空揚げ、中華風パン、甘唐辛子と鶏のサラダ」だ。

「いまはメニューは限られているけれど、どんどん良くなるよ。バグダッドの治安と同じでね」とTsaoさんは語る。

 カラダ地区はバグダッドの歴史的中心地で最も活気のある地区。最後に残っていたアジア料理店は、イラク情勢が混乱し始めた2年前に閉店した。市内でも最も自由な地区として知られるが、武装集団による攻撃を何度も目にしている住民たちは、今でも外国人の姿を見ると驚く。

「爆弾? たくさん見たよ」とTsaoさんは笑顔で語る。「爆弾のことを考えなければ、怖くなることはないよ」(c)AFP/Herve Bar