【12月5日 AFP】タイのプミポン・アドゥンヤデート国王(King Bhumibol Adulyadej)が5日、80歳の誕生日を迎える。4日から盛大な祝典が開催される中、前年9月の無血クーデター後、初の総選挙が23日に実施されるため、国王と政治をめぐる問題にも注目が集まっている。

 5日には王族によるパレードが行われ、数万人の国民が詰め掛けると予想される。また4日夕には、プミポン国王による毎年恒例の演説が予定されている。1946年に即位した国王は、若いころは何時間もつづく長い演説をすることで知られた。ぐう話を用いて政治や社会の問題に触れる国王の演説に、国民はどのようなメッセージが込められているのかと真剣に聞き入ったが、得てして分かりやすい内容のものが多かった。

 年を経るにつれて健康を害したこともあり、演説時間は短くなっていった。ただ今回の演説は、無血クーデターで当時のタクシン・シナワット(Thaksin Shinawatra)首相が失脚して以来、政治的混乱がつづいていることから、当初の予想ほど短いものではないとみられる。

■クーデター後、国王の力により国が一致団結

 世界最長の在位61年を誇るプミポン国王は、政情不安が繰り返されるタイで、政治の安定に向けて影響力を発揮してきた。

 しかし、ソンティ・ブンヤラガリン(Sonthi Boonyaratglin)陸軍司令官はタクシン前首相追放にあたり、国王に敬意を表してクーデターを主導したと主張した。軍部による全権掌握後の国王との謁見で、国王が暗黙のうちにクーデターに対する賛意を示したという。

 クーデター以降、プミポン国王はたび重なり国民に一致団結を呼び掛けている。直近では2日に行われた国王の誕生日を祝う陸軍の祝賀パレードで、次のように述べている。

「国民は、今以上に一致団結し、互いへの慈悲の心を持たねばならない。また、国の安定と保障を最重要課題としなければならない」

 この61年間で、タイでは首相が20回替わり、憲法が16回改正され、クーデターは少なくとも15、6回発生した。そのような国でプミポン国王は、求心力を持つただひとりの指導者というイメージを国民に与えてきた。

 タイの学校では、国王への敬意と、愛国精神と、神への帰依は強く結びついていると教えられる。そのためタイ社会で国王は、ほとんど神のような存在としてあがめられている。

■現治世終幕への予感

 英語紙ネーション(Nation)はプミポン国王の治世をたたえる記事の中で、「国王に備わった力は、俗世の言葉では表現できないほど大きなものであり、畏怖の念さえ起こさせる。ゆえにタイ国民は、国王への最大限の敬意を表するため、進んでその前にひざまずくのである」と、その偉大さを高らかにうたっている。

 だが、その揺るぎない地位と80歳という年齢こそが、現国王の治世が終わったときにいったい何が起きるのかと、言葉にできない大きな不安をかき立てているのも事実だ。

 プミポン国王は前月、脳の一部に血流障害があると診断され、4週間ほどの入院期間ののちにようやく退院した。

 84歳になる姉もがんのため入院中で、国王の伝記『The King Never Smiles(国王は決してほほ笑まない)』を著した作家のポール・ハンドレー(Paul Handley)氏は、姉弟の健康上の問題が現治世の終幕が近いとの見方をいっそう強めていると指摘する。ハンドレー氏による伝記は国内では発禁処分となっている。

 これまでのところ、国王の健康状態に関する懸念は、かえってその人気を高めてきた。タイ国民は1年を通して、国王の生まれた曜日である月曜を象徴すると言われる「黄色」の服を好んで着用する。ところが前月の退院時に国王がピンク色の服を着ていたことから、街中にピンク色の服を着た人々があふれかえるようになった。
 
■国内に広まる、国王の健康状態への懸念

 こうした国王崇拝の風潮や、国王へのいかなる批判も禁止する厳格な法律のために、国王の死に直面したときにいったい何が起きるのか公に口にする人はほとんどいない。

 国王の長男であるワチラロンコン皇太子(Crown Prince Maha Vajiralongkorn)がその確実な後継者だが、2女のシリントン王女(Crown Princess Maha Chakri Sirindhorn)も法律で後継者としての権利を有すると定められている。

 23日に総選挙を控え、王宮は目下、国民の間で広がる国王の健康状態への懸念を鎮めようと必死だ。だがハンドレー氏は「(王宮は)国王の後継者問題に対する懸念払しょくを望みながら、国王はまだ元気に生きている、ということしか言えずにいる」と語り、懸念の根強さを強調した。(c)AFP/Griffin Shea