【10月3日 AFP】サウジアラビアの港湾都市ジェッダ(Jeddah)の摩天楼が一瞬にして吹き飛ばされる。これは巨大な10代の少年のくしゃみのしわざ。この少年こそ、イスラム教のスーパーヒーロー「ジャッバ(Jabbar)」である。

 10代の少年Nawaf Al-Bilaliが変身するこの「ジャッバ」は、インドネシアでこのほど発売されたイスラム教の99人のスーパーヒーローを扱った漫画『The 99』の一番最初に登場する。

『The 99』のプロモーションのためインドネシアの首都ジャカルタ(Jakarta)を訪れたクウェート生まれの作者、Naif Al-Mutawa氏は、この漫画は「イスラム世界で今起きている出来事のメタファー(隠喩)」だと言う。「イスラム教またはコーランは、いいことにも悪いことにも利用されます。その使い方を間違えると、コーランを解釈する人間自身が非難されるべき場合でもコーランそのものが非難されるのです」

 99人のスーパーヒーローは、アラーが持っている99の特性がそれぞれ人格化されたものだ。彼らは、13世紀のバグダッド(Baghdad)を由来とする宝石からスーパーヒーローとしての力と知識を授けられる。例えば、ジャッバには「不死身の力」が授けられ、インドネシア独自のキャラクター「ファタハ(Fatah the Opener)」には、「どこでもドア」を創る能力が付与されている。

 この物語の見せ場は、善と悪のそれぞれのキャラクターが「99人のスーパーヒーロー」への忠誠を競い合う場面だ。スーパーヒーローたち自身も時には甘い言葉で「悪」の世界に誘い込まれてしまう。

 このように物語はイスラム教の文化に根付いたものだが、表面上は「全然イスラム教っぽくない」とAl-Mutawa氏は言う。「宗教的な意味合いで言えば、『スパイダーマン』と同程度でしょう。祈りや預言者といった単語自体、一切でてこないのです」

 物語のキャラクターは武器は携行せず、男女比も半々だ。

 イスラム教徒のディアスポラ(世界中に散在していること)は、例えば「バリはスーダン生まれ、フランス育ち」「ハディアはパキスタン生まれ、英国育ち」といった風に、それぞれのキャラクターの生まれと育ちの国を同じにしないことで表現されている。

 Al-Mutawa氏は臨床心理学者でもあり、クウェートの元戦争捕虜や米国で拷問を受けた元政治犯のカウンセリングを10年以上行ってきた経験がある。「サダム・フセインをヒーローと思いながら育ってきたイラクの人々が、その本人から拷問を受けている」という矛盾に突き当たったとき、彼は子どもたちに「正しいメッセージを伝えなければならない」と、子ども向けの本を数冊を執筆・制作し、いずれも大成功を収めた。

 その後、共同執筆した『The 99』は現在、中近東の各国で販売されている。「クウェートとアラブ首長国連邦でも販売されています。スパイダーマンと同じぐらい好調な売り上げですよ」とAl-Mutawa氏。今月には米国、2008年にはマレーシアでも発売される。トルコとフランスでも販売交渉が進んでいるという。(c)AFP/Nabiha Shahab