【9月5日 AFP】小説『1984年(1984)』や『動物農場(Animal Farm)』で、国家が思想を監視する近未来社会を描いた英国の作家、ジョージ・オーウェル(George Orwell)は、自身が生前20年以上にわたり英国の国内情報活動を担当する情報局保安部(MI5)によって「監視」され続けていたが、MI5ではオーウェルを共産主義の主流派とはみなしていなかったことが4日、新たに公開された記録で明らかになった。

■ロンドン警視庁 VS. MI5の反論

 英公文書館が公開したオーウェルに関するMI5の記録文書によると、破壊工作取り締まりなどを担当するロンドン警視庁特捜部はオーウェルについて「先進的な共産主義思想の持ち主」とみなしていたが、ライバル部署にあたるMI5はこの分析に対し、異議を唱えていた。

 また、オーウェルがまだ本名のエリック・アーサー・ブレア(Eric Arthur Blair)で記者活動をしていた第2次世界大戦中、日曜紙サンデー・オブザーバー(Sunday Observer)の特派員として連合軍総司令部(Allied Forces Headquarters)を取材するために身元審査が行われた際にも、MI5はいかなる反対もしなかった。

 戦時中の1942年にロンドン警視庁特捜部が行った報告では、オーウェルは「進歩的な共産主義思想の持ち主で、共産主義者の集まりでよく見かけるとインド人の友人数人が証言している。オーウェルは仕事場でも余暇の時間でも、ボヘミアン的なファッションを好んでいる」と描写されていた。

 あるMI5高官はこれに反論し、「オーウェルの最近の作品『ライオンと一角獣(The Lion And The Unicorn)』や、左派出版社ゴランツ書店の創始者ヴィクター・ゴランツ(Victor Gollancz)らとの共著『The Betrayal Of The Left(左派の裏切り)』からも明らかなように、彼は共産党を支持していないし、彼らもオーウェルに賛同していない」との分析を書き残している。

■オーウェルはソ連の共産主義を否定

 また1942年の別のMI5報告では、オーウェルについて「若いころは多少アナキスト的な傾向があり、過激分子との接触もあった。疑いなく強い左派的思想の持ち主だが、共産主義の正統派からはかなりかけ離れている」と描写されていた。オーウェルは1930年代、スペインのフランコ独裁政権に反対し、スペイン内戦に参加した経験がある。

 さらに、MI5がオーウェルは共産主義者ではないと結論づけた理由の一つに、左派雑誌に掲載されたアンケートへの回答がある。その中でオーウェルは、ソ連が第2次世界大戦後に存続したとしても、欧州に共産主義の潮流を確立することはないだろうと述べ、ソ連が支配的存在となる可能性を否定したという。

 オーウェルが当時の英情報機関の注目を浴びるようになったのは、英国共産党の当時の機関紙ワーカーズ・ライフ(Workers Life)のパリ特派員をオーウェルが志願していると、通称MI6として知られる対外情報担当の英秘密情報部(Secret Intelligence ServiceSIS)が報告したことがきっかけだった。

 オーウェルは1950年に亡くなった。(c)AFP