【8月16日 AFP】カンボジア北西部の都市バタンバン(Battambang)の空を厚い雲が覆い始めると、建物の屋上や居酒屋に集まった人たちがソワソワとし始める。「天候」に運命を賭けた人たちの正念場なのだ。

 雨の降らない季節は静かなバタンバンの市場周辺も、いったんモンスーンが到来し「Phnal Tuek Phleang(雨降りの賭け)」の季節に入ると興奮した雰囲気に包まれる。

 市場周辺の高い建物の屋上には、ビニール防水シートのテントが設営され、無線アンテナが林立する。臨時の天候観測所の出現だ。屋根の上の観測係と地上の胴元や賭けの参加者が興奮した様子で情報を交換し、掛け金をやりとりする。「一雨降れば大もうけ」の夢がいやがうえにも膨らみ、緊張は最高潮に達する。

「この賭けに参加する人はとても多い。雲が出て空が暗くなると、賭ける人は、1万人以上になるかもしれない」と話すのは、賭けに参加する74歳の市民だ。トランシーバーを片手にゲストハウスを忙しく歩き回り、仲間の4人とともに屋上の観測情報に耳を澄ます。

 賭けのルールは「特定の日に雨が降るかどうか」、「特定の時間内に、コップにどのくらいの雨水がたまるか」など何通りもあり、最も一般的なのは、「屋上に置いた紙が、決められた時間までに濡れるかどうか」を賭ける方法だ。

 賭け金は、この地域で主に流通する隣国タイの通貨バーツで、100バーツ(約380円)からスタートするが、天候次第では大金が飛び交うこともある。配当金は離れた街に配置された観測者から無線で送られてくる天候状況に基づき算出されている。

 この「雨降りの賭け」は他のギャンブル同様に違法行為だ。しかし、賭けはほとんどが電話や双方向無線で行われ、警察も効果的に取り締まる方法がないという。

 最初にこの賭を始めたのはバタンバンの中国商人で、暇つぶしでやっていたという。しかし、過去10年間に新しい富裕層の趣味として人気が高まり、金銭だけでなく、土地建物や会社の経営権までが賭けられるようになった。地元の新聞には賭けに絡んだ犯罪のニュースが掲載されない日はなく、この賭で財産を失い、家庭内の紛争になるケースも多いという。(c)AFP/Tang Chhin Sothy