【8月6日 AFP】ドイツ西部の都市ケルン(Cologne)に欧州最大のモスク(イスラム礼拝所)を建設する計画が持ち上がり、キリスト教関係者と極右の一部から「イスラム系住民がその強大さを誇示するためのもの」と強い反対の声が上がっている。

 かつては「北のローマ」と呼ばれたケルンには、巨大なキリスト教の大聖堂がある。

 問題のモスクは、市内のエーレンフェルト(Ehrenfeld)地区に建設される予定。2000人の信者を収容できる大規模なもので、高さ55メートルの2本のミナレット(尖塔)と、34.5メートルのガラスでできた丸天井が設けられるという。建設費は個人からの寄付金、および金融機関からの融資でまかなわれる。着工は2007年中の予定。

 市の全人口の12%を占めるイスラム系住民は、通常、市内にあるプレハブ式の「仮設モスク」で祈りを行う。施設の大半はみすぼらしく、人目に付かない場所にひっそりと建てられている。

 かつて薬品工場だった建物を利用したある礼拝所は、ガソリンスタンドと騒々しい通りに挟まれるように建っているが、金曜礼拝には1000人以上が集まり、施設に収容しきれない場合は外にマットを敷いて祈る。

「キリスト教徒には教会が、ユダヤ教徒にはシナゴーグがある。われわれイスラム教徒も、祈りを捧げる場所としてモスクが欲しい」と、あるイスラム系住民は話す。

この言葉こそ、ドイツ最大のイスラム団体「トルコ・イスラム宗教施設連合(DITIB)」がモスク建設を決定した理由を明白に語る。

 モスク建設は「美的な意味でも象徴的な意味でも素晴らしい計画」と語るフリッツ・シュラマ(Fritz Schramma)市長は地元の各政党から計画への支持を取り付けている。

 議員の1人は「ケルンには美しい大聖堂がある。イスラム系住民12万人も、権威ある建物で祈りを捧げたいはず」と語る。

 一方、地元住民の間には、この計画を疑問視する声も上がっている。
 
「市中心部に巨大なモスクが登場することに、住民の一部が警戒心を抱く心情は理解できる」と語るのは、ケルンのカトリック大司教。自身も建設計画に否定的だという。

 モスク建設をめぐって起こった論争は、ドイツ国内300万人のイスラム系住民と、その他の国民との間の根深い溝を浮き彫りにする形となった。

 ドイツでは長年、移民は「一時的な出稼ぎ労働者」とみなされてきた。社会と同化せず、40年暮らしてもドイツ語を話せないトルコ系移民がいると憤慨する市民も多い。

 これに対しイスラム系住民は、「移民と地元住民の融和は双方向から行われるべきもの。ドイツ人はイスラム文化を尊重し、もっと寛容になってほしい」と主張する。

 似たような論争は最近、ベルリン(Berlin)など国内の別の都市、さらにはオランダやスペインでも起きている。
 
 ナチスの迫害を受けた著名ユダヤ人作家でケルン市民のラルフ・ジョルダノ(Ralph Giordano)氏が、「モスク建設は市民の融合を目指すものだというが、逆効果しか期待できない」と計画に反対を唱えたことから論争は激化した。

 「頭の上からつま先までベールで覆われたイスラム教徒の女性はまるで『人間ペンギン』」とイスラム教を揶揄する同氏は、「モスク建設は、欧州社会のイスラム化が徐々に進んでいることを象徴する事例」と主張する極右グループ「プロ・ケルン(Pro Cologne)」に共感を覚えるという。建設反対のデモを展開する同団体には、ケルン市議会の議員5人が所属している。

 アパートの建物が雑然と立ち並ぶ労働者階級の居住地では、頭をスカーフで覆ったイスラム教徒の女性と、流行のファッションに身を包む学生が一緒に歩道を歩く光景が見られる。「トルコ・イスラム宗教施設連合(DITIB)」のBekir Alboga会長はイスラム系住民と、その他の市民の間の妥協点を探って行きたいという。

「イスラム系住民はドイツに脅威を与える存在ではない。モスクは、すべての人に門戸を開いている」

 ある市議会議員も新しいモスク建設に危機感を抱くことはないという。

理由は、「イスラム教徒が何を説いているのか分からないような奥まった場所に礼拝所があるよりまし」だからという。(c)AFP/Yannick Pasquet