【6月7日 AFP】フランスのカマンベール(Camembert)チーズの2大製造所が、「消費者の安全を考え」て「生乳カマンベール」の製造を停止した。絶大な人気を誇るカマンベールの将来が危ぶまれている。

 生乳カマンベールの国内シェアの90%を握るラクタリス(Lactalis)とイズニー(Isigny Cooperative)はこのほど、「生乳には健康被害をもたらす恐れのあるバクテリアが含まれており、加熱しなければ除去できない」として、人気ブランドの原料を安全性の高い「低温殺菌牛乳」に切り替えた。

 両社はこれに伴い、原産地呼称統制(Appellation d’Origine ControleeAOC)制度から脱退した。AOCの認証は「製品の信頼性」にお墨付きを与えるもので、売上にも大きく影響することから、各メーカーはAOCを重要視している。AOCを脱退したのは、両社が初めてだ。

 ラクタリスのある取締役は、「生乳カマンベールの製造中止は苦渋の選択だった。消費者の安全が最優先される中、生乳カマンベールが100%安全との保証はできない。当社の歴史的ブランドが製造の不備により消えるというリスクだけは避けたかった」と語った。

■脱退は「営業的動機」と非難

 これについて、「Defence Committee for Authentic Camembert(ほんもののカマンベールを守る会)」のジラール・ロジェ(Gerard Roger)会長は、「『生乳』ではさらなる増産が難しいというのが本当の理由だろう。両社は営業的な動機だけで判断している」と非難した。

 チーズ通に言わせると、ノルマンディー(Normandie)産の生乳カマンベールとスーパーマーケットなどで売られている殺菌牛乳のカマンベールには、ビンテージワインと量販ワインほどの差があるという。先のロジェ会長は、「生乳でなければあの芳醇な味は出ない。牛乳を加熱すると、チーズはチーズでも、もはやカマンベールとは呼べない」と力説した。

 またイズニーは、AOCの規制に反した「精密ろ過」も導入しており、これにより生乳カマンベールの今年の国内生産量は、前年の1万2500トンから30%以上減の4000トンになると見られる。

■チーズ文化の衰退を懸念

 ノルマンディー地方には、半世紀前まで生乳カマンベールの製造所が林立していたが、多くがラクタリスに買収され、現在はラクタリスとイズニーを含む5社のみとなっている。

 「手作り」の伝統を80年間守ってきたギヨー(Gillot)のベルトラン・ギヨー(Bertrand Gillot)は、「機械投入により発展してきた両社は、今度は大量生産に追いつかないとの理由から殺菌牛乳を使おうとしている」と揶揄(やゆ)した。

 ギヨーは2年前、同社「Reo」ブランドのチーズに混入した有害バクテリアが原因とされる病気が子どもの間でまん延した際、チーズの製造を停止した。以来、同社は安全性テストを強化。ギヨー氏は、「生乳カマンベールを食べることは、車の運転よりもはるかに安全だ」としている。

 先のロジェ会長にしろ、ギヨー氏にしろ、ラクタリスとイズニーが「殺菌牛乳」と「精密ろ過」もAOCの認証対象とするよう原産地呼称委員会(INAO)に規制の変更を働きかけるのではと懸念している。

 ギヨー氏は、「もしそうなれば、真のカマンベールとそうでないカマンベールの線引きがなくなる。チーズに関する文化も知識も、消えてなくなるだろう」と語った。(c)AFP/Hugh Schofield