【香港 21日 AFP】独創的なメニューで知られる世界的なシェフ、ピエール・ガニェール(Pierre Gagnaire)氏は、環境の悪化と高級レストランの世界的な急増で、近い将来、食品の流通が劇的に変わると警告している。

 生息環境が破壊されることから天然水産資源が枯渇し、野菜や果物にも希少種ができて、メニューから消える料理があったり、レストランが閉店に追い込まれる可能性があるというのだ。加えて、レストランの急増に伴う需要の高まりで良質な食材が仕入れにくくなる一方、価格は天井知らずに上がると予想している。ガニェール氏は、生き残りをかける飲食店は、養殖・遺伝子組み換え食材にも適した料理法を考える必要があると指摘する。


■乱獲や環境破壊で消えゆく食材

 香港のマンダリン・オリエンタルホテル(Mandarin Oriental Hotel)内に展開する自身のレストラン「ピエール・ガニェール」を訪れた同氏は、「非常に心配だが、それが現実だ。われわれが口にしている食物は根本から変わるだろう」と述べた。「例えば、今後5~10年間に天然の魚介類は姿を消し、養殖魚しか手に入らなくなるだろう。そうなれば、調理法だけでなく調味料やメニューにも影響が出る」

 ガニェール氏の終末論的な見方は、世界経済が急速に発展する中で、収益率のよい高級レストランが増えている現状に基づくものだ。乱獲や環境破壊により絶滅の危機にあるとされる野生種の多くについて、自然保護活動家らによる最新の報告は悲観的な将来像を描く。

 世界自然保護基金(World Wide Fund for NatureWWF)は、漁業を制限しない限り、主要な食用魚類は50年以内に絶滅すると警告。特に、3年以内の絶滅が指摘されるクロマグロと、南アフリカ産アワビが危機に直面していると指摘する。また、さまざまなサメ類もフカヒレ用の乱獲が原因で、絶滅危ぐ種リストに加えられた。

■料理に科学を取り入れた第一人者

 ガニェール氏は、自身の名を冠したレストランを世界各地に展開するミシュラン三つ星シェフの1人。メニューの創作に科学的な分析を導入し、世界的に有数の偉大かつ大胆な料理人とみなされている。この調理スタイルを有名にしたのはスペインのレストラン「エル・ブリ(El Bulli)」のシェフ、フェラン・アドリア(Ferran Adria)氏だが、最初に考案したとされるのはガニェール氏だ。

 パリのオテル・バルザック(Hotel Balzac)の中にある三つ星レストラン「ピエール・ガニェール」は、2006年の「世界のレストラン・ベスト50」で3位に選ばれた。1位は「エル・ブリ」で、2位は英国・ロンドンの「ファットダック(Fat Duck)」。

 写真は19日、香港のマンダリン・オリエンタルホテルで、撮影に応じるガニェール氏。(c)AFP/MIKE CLARKE