【ロサンゼルス/米国 16日 AFP】米国の映画監督のスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)氏が、中国の胡錦濤(Hu Jintao)国家主席宛てに書簡を送り、「スーダン西部ダルフール(Darfur)地方で続く紛争を収拾させるため、スーダン政府に圧力をかけるように」と要請した。スピルバーグ氏は、2008年に開催される北京五輪組織委員会の芸術顧問を務めている。

■「中国は紛争解決に、経済的な影響力を駆使すべき」と要請

 AFPが11日入手した書簡の中で、スピルバーグ氏は中国に対し、「ダルフールへの国連(UN)平和維持軍派遣を拒否しているスーダン政府を説得して、同軍を受け入れさせてほしい」と要請した。

 書簡は4月2日付で、「世界中の多くの人々は、ダルフール紛争の終結に向けた国連の取り組みを、中国が全面的に支持すべきだ、と考えている」と述べ、中国が対スーダン政策を変更し、影響力を行使するよう求めている。

 スピルバーグ氏はさらに、ダルフール紛争は「ジェノサイド(集団虐殺)」以外の何ものでもないとして、スーダン政府を非難。「スーダン政府への説得を怠った場合、中国の信頼は失墜し、『ジェノサイド五輪』の開催国としてその名が刻まれることになる」と警告した。

 中国は国連安全保障理事会(UN Security Council)の常任理事国で、「スーダンに多額の投資をしているにもかかわらず、同国政府に影響力を行使していない」と批判されている。中国はスーダンから大量の石油を輸入するとともに、同国へ武器を輸出している。

 国連によると、2003年に始まったダルフール紛争では、これまでに20万人が死亡し、200万人が避難を強いられた。一方、スーダン政府は、死者数は9000人だと主張している。

■北京五輪に協力するスピルバーグ氏自身への批判も

 スピルバーグ氏は3月、米国人女優で国連親善大使のミア・ファロー(Mia Farrow)さんから、「ダルフール紛争における中国のスーダン政府支援を黙認し、北京五輪の準備を手伝っている」と非難された。

 ファローさんは、「ナチスのホロコーストの生存者の証言を記録するため、1994年に『ショア基金(Shoah Foundation)』を創設したスピルバーグ氏は、中国がダルフールの大虐殺の財源となっていることをご存じないのだろうか」と皮肉った。

 また監督が、中国の行為を無視したまま五輪開催を援助した場合、「1936年のベルリン五輪の映像をナチスのプロパガンダ映画『オリンピア(Olympia)』として製作した、監督レニ・リーフェンシュタール(Leni Riefenstahl)の現代版になりかねない」と警告した。

 米国では10日、ダルフール紛争に関し直ちに行動を起こすよう中国に強く呼びかける書簡に、100人以上の議員が署名している。

 写真は2006年4月16日、北京で、五輪スタジアムの模型を眺める中国の映画監督チャン・イーモウ(Zhang Yimou)氏(左から2人目)とスピルバーグ氏(中央)。(c)AFP