ナイスボディーを求めた痛すぎる代償、ベネズエラ
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【8月31日 AFP】別居してしまった夫の心を取り戻したい一心で、メルセデスさん(45)はセクシーなヒップを手に入れようと夢見た──そこには危険な、ともすれば死ぬかもしれないシリコン注入施術が手をこまねいていた。やると言ってしまった日のことは、後悔してもしきれない。震える声でメルセデスさんは「痛くて、5分と座っていられないんです」という。あまりに屈辱的すぎて、名字は明かしたくないという。
ベネズエラでは、美容整形は歯科医に行くのと同じくらい普通だというくらい美しさへの崇拝がすさまじく、各種の美人コンテストはまるで宗教のようだ。
しかし、2年前にメルセデスさんが受けたのと同じ施術では2011年以来、合併症などで15人が亡くなっている。合成生体高分子というゲル状の物質を体に注入する整形術だ。
この施術でのゼリー状物質はインプラントの中に入れられているのではなく、注射のように組織間に広がってしまうため、コントロールできない。メルセデスさんは左右の臀部に560ccずつを注入してもらった。「どんなものか、調べることもしなかった。誰が一番うまく施術できるのかばかり調べていた」。今はこのシリコンが自分の体から取り除かれることを願って、診療所に通う。
最初の手術費は800ドル(約7万8000円)ほどかかった。数日後、激痛が走り、その痛みにようやく耐えると今度は家族たちから厳しい言葉が浴びせられた。
今、メルセデスさんの夫は戻ってきたが、体の後ろのあざがひどくて夫の前で服を脱ぐこともできず、セックスもできない。
■寝たきりの症例も
同じ施術を受けたアストリド・デラロサさんの場合は、ゲルが腰まわりに移動してしまった。デラロサさんは2011年に被害者たちの支援基金「人工生体高分子にノー(No to Biopolymers Foundation)」を立ち上げた。この基金によると、同じ施術を受けた患者は4万人にのぼる。「娘の15歳の誕生日に、胸とヒップにゲルを注入する手術をプレゼントして後悔している親もいる」という。
ベネズエラ政府は2012年11月に人工生体高分子などの詰め物素材を美容整形目的で使用することを禁止し、現在も施術を続ける医師や整形外科医には罰則が科されている。それでも施術を受けたという人は増えている。
男性にも被害者が出ている。スポーツジム・トレーナーだったオマル・ゲレロさん(35)は、胸をたくましく見せようとして注入したゲルが胸骨の間の筋肉へ移動してしまい、胸腔が締め付けられ、呼吸さえ困難になってしまった。この2年間、ベッドで寝たきりの状態だ。「運動どころか走ることもできない。生きるしかばねです」と声を絞り出す。
■除去手術でも取り切れないゲル
ゲレロさんは、入れたゲルを除去してくれると評判の医師2人のうち、首都カラカス(Caracas)のダニエル・スロボディアニック(Daniel Slobodianik)医師を訪ねた。2011年以降、整形手術のゲルで問題を生じた患者を約400人診てきたという。そのうち女性50人、男性数人にシリコン除去手術を行った。
医院の待合室にはいすがなく、老若男女で満員状態だった。痛みがひどくてほとんど動けない60歳の女性、一緒に手術をしたばかりだが恐ろしい話を聞いて怖くなり来たといういとこ同士、シリコンの影響が胎児にないか不安で来た妊娠中の女性──。
スロボディアニック医師は1件6000ドル(約58万円)で除去手術を行っているが、完治はおろか改善するかどうかも保証がないことから、ベネズエラ形成外科学会はこの手術についてまだ実験段階のものとみなしている。手術をしてもゲルは完全には取り切れず、体内に残ってしまう。「不治の病だ」と同医師は嘆く。 (c)AFP/Patricia CLAREMBAUX