【3月25日 AFP】有害な影響を及ぼす可能性があるとして、何かと批判の対象になりやすいビデオゲームだが、科学者や開発者らは健康や学習、その他の社会的な目標に貢献するプラス面もあるとアピールしている──。

■食育から機能維持、社会問題の啓蒙まで

 子供たちに健康な食習慣をつけさせるため、高齢者の脳の働きの維持、さらには貧困や気候変動といった問題解決に、人を没頭させるゲームの力が広く利用されている。

「ゲームは、特に心理学的機能において、プラスの影響を持ちうる」と話すのは米ノースカロライナ州立大(North Carolina State University)の「ゲームの有益性研究室(Gains Through Gaming Lab)」、ジェーソン・アライア(Jason Allaire)氏だ。「われわれは認知面と学習面に注目している。反応時間と記憶への影響など、正確なメカニズムを理解しようとしている」

 アライア氏が率いた最近の研究では、デジタルゲームを遊ぶ高齢者のほうが、遊ばない高齢者よりも感情の健康レベルが高かった。この研究では因果関係は明確にされなかったが、研究でいつか関連性を突き止められるだろうとアライア氏は自信を見せる。

 大手ゲーム会社やフリーランスの開発者は、肯定的なスキルや習慣を身に着けることを目指したゲームを数多く生み出してきた。

 米ノースウエスタン大(Northwestern University)の学生デニス・アイ(Dennis Ai)さんが立ち上げたベンチャー企業「ジャイブ・ヘルス(Jive Health)」は子供の肥満対策を目的に、子供たちがもっと野菜と果物を摂取するきっかけになるモバイルゲームを開発した。ゲームは動物のキャラクターのためにリンゴなどの果物を探すという内容で、本物の食品の写真を撮らないと次のレベルへ進めない。「子供たちはゲームをすごく楽しみながらやっている。すごくうまくいくと思うよ。子供に健康的な食習慣を教えるには、お説教だけではだめなんだ」と語るアイさんのチームは、NPO「より健康なアメリカのためのパートナーシップ(Partnership for a Healthy America)」が主催する「イノベーション・チャレンジ賞(Innovation Challenge)」を受賞した。

■批判の的になりやすい「シューティングゲーム」にもプラス面

 批判の対象とされることの多い「シューティングゲーム」にも良い面はある。カナダ・トロント大学(University of Toronto)の研究では、シューティングゲームやドライビングゲームをすると、たとえそれが短時間でも、隠れた標的を探す能力が向上することが示された。

 こうした視覚能力について、研究者のイアン・スペンス(Ian Spence)氏は「荷物検査からX線画像やMRI画像の読み取り、衛星画像の解釈、カモフラージュを見破ること、さらには混雑の中で友人の顔を探し出すといったことにまで必要」な機能で極めて有用と述べる。

 またボストン小児病院(Children's Hospital Boston)の研究チームが専門誌「思春期精神医学(Adolescent Psychiatry)」に発表した報告によると、怒りの感情を制御することに問題のある子供たちが、ゲームによって感情をコントロールできるようになるという。

 研究で取り上げられたのは、敵の宇宙船を撃つ一方で、味方は撃たないように避けるゲームだ。心臓の脈拍が一定以上に早くなると撃つ能力を失うため、落ち着くよう自制を教える効果がゲームにはあった。

■さまざまな有効性を発揮するゲーム

 南カリフォルニア大学(University of Southern California)の学生らが製作したゲーム「死に行くダルフール(Darfur is Dying)」は、スーダン・ダルフール地方の人道危機に対する認識を高めるゲームだ。

 また2004年のある調査では、ビデオゲームをプレーする外科医にミスが少ないことが示され、それは集中力や目と指の間での協調性運動が養われるためではないかとされた。

 いわゆる真面目なゲームの専門家は、ゲームの力を利用する取り組みをさらに押し進めており、今月米サンフランシスコ(San Francisco)で行われるゲーム産業イベント「ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス(Game Developers ConferenceGDC)」でもこの話題は議論の一つとなりそうだ。

 昨年も同じトピックについて議論するために、米ホワイトハウス科学技術政策局(White House Office of Science and Technology Policy)の招きで学者たちが集まった。

 この会議に出席した1人、米ミシガン大学(University of Michigan)「娯楽と学習のためのゲーム研究室(Games for Entertainment and Learning Lab)」のキャリー・ヒーター(Carrie Heeter)氏は「こうした(好)影響を得るためにゲームを利用する方法はたくさんある」と述べる。

 同氏の研究室では、公衆衛生の重要性や医学的障害、公害などに関する学習をゲームを通じて支援している。しかし、意図せず得られる結果も多いという。「ある中国人留学生はゲームの『トゥームレイダー(Tomb Raider)』で英語を勉強する気が起きた」とヒーター氏は一例を挙げた。

 ゲームの影響に関する研究を続けてきた米ノースイースタン大学(Northeastern University)のマギー・セイフ・ナスル(Magy Seif el-Nasr)教授は、心理的報酬のためにゲームをする人や、友人とのつながりのためにゲームをする人がいることも指摘している。「ゲームの中にはたくさんの思考を促すものもあり」、それらは高年齢層にとって特に重要で「その種の問題解決行動は認知力と、時間の経過に耐える記憶力を高める」と述べている。(c)AFP/Rob Lever