【1月17日 AFP】ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のタンパク質を変異させ、免疫細胞内での増殖を止める物質に変える方法を発見したと、オーストラリアの科学者が16日、発表した。HIVが引き起こす後天性免疫不全症候群(AIDS、エイズ)の治療法確立に向けた重要な前進だ。

 クイーンズランド医学研究所(Queensland Institute of Medical Research)のDavid Harrich氏は、ウイルス増殖を助ける働きを持つHIV内のタンパク質を、非常に強力な阻害物質に改変。HIVの攻撃対象である免疫細胞に導入したところ、感染後のウイルス増殖速度を抑えることに成功したという。

 実験結果は、科学誌ヒューマン・ジーン・セラピー(Human Gene Therapy)に掲載されている。今回の実験は培養皿の上で行われた。人間を対象とした臨床試験を行うためには、今年中に始まる予定の動物実験の結果を待つ必要がある。

 Harrich氏によると、「ナルベーシック(Nullbasic)」と名付けられたこの改変タンパク質により、一部の細胞ではウイルス増殖が通常の8~10倍も抑えられたという。

 国連(UN)によると、HIVに感染した場合、何も治療をしなければ10~15年でエイズを発症することが多い。抗レトロウイルス剤を服用することで、潜伏期間を伸ばすことができる。

 1種類のタンパク質のみに基づいた治療法が確立されれば、HIV感染患者は多剤併用療法に終止符を打ち、生活の質を高め、治療費を抑えることができるかもしれない。

 だがHIV研究者の中には、ナルベーシックを使った新薬開発の実現は程遠く、すべてが計画通りに進んだとしても、ナルベーシックを使った治療の開始には10年はかかるのではないかとする者もある。(c)AFP