【10月31日 AFP】乳がん予防検診を受けることで得られる恩恵は、その危険性(リスク)よりも大きいとする研究論文が、30日の英医学専門誌ランセット(The Lancet)に掲載された。論文は乳がん検診を受けることで、より多くの女性の命が救われると主張している。

 乳がん検診をめぐっては、生涯にわたって発症することはなかったり、検診を受けなければ乳がんと診断する必要はなかった例にまで手術や放射線治療などを行ってしまう過剰診断の危険性について、これまで多くの議論がなされてきた。

 今回の論文は、英国の政策立案者への提言を目的に、保健省のイングランドがん医療責任者、マイク・リチャーズ(Mike Richards)氏と英国がん研究所(Cancer Research UK)のハーパル・クマル(Harpal Kumar)最高経営責任者(CEO)が設立した独立専門家委員会がまとめたもの。論文は調査の結果、「乳がん検診により余命は伸びる」と結論づけている。

■「代償もあるが恩恵が上回る」

 英国では50~70歳の女性に3年に1度のマンモグラフィー(乳房X線撮影)検査を行っているが、研究チームが英国で長期間にわたって実施されてきた乳がん検診データを分析した結果、乳がん検診は死亡率を20%低減させていたことが分かった。これは検診を受けた女性の180人に1人の死亡を予防したことを意味する。

 このことから、英国の乳がん検診プログラムは「毎年およそ1300人の乳がんによる死者を防いできたとみられる」と論文は述べている。

 その一方で検診による代償もあった。検診で乳がんと診断された例の20%近くは、何の症状も起きないものだった。

 この結果から、委員会は50代以降の英国人女性1万人が20年間にわたって乳がん検診を受け続けた場合、681人が乳がんと診断されると推計。そのうち129人は過剰診断の可能性があるが、43人の死亡を防ぐことができるという。

 ランセット誌も論説のなかで、「英国の乳がん検診プログラムは(女性たちの)延命に貢献しており、総合的には害よりも恩恵の方が大いことを研究は示した」とし、「乳がん検診について『インフォームド・チョイス(情報公開に基づく治療の選択)』を行えるよう、この乳がん検診に関する最新の研究結果を女性たちに完全公開し、アクセス可能とする必要がある」と述べている。

 その一方で、今回分析したデータがすべて20年以上前のものであることから、研究チームは結果には限界もあると述べている。

■賛否両論の乳がん検診

 乳がん検診による恩恵が過剰診断による害を上回るか否かについては、がん専門家らの間で長年、議論が続いている。

 乳がん検診でがんと診断された場合、たいていは手術や放射線治療、化学療法などを受けることになる。これは、乳がんでは生涯にわたって増殖しないとの判断が不可能だからだ。

 今年8月には、50歳の女性が乳がんで10年以内に死亡する確率は、乳がん検診によっても0.53%から0.46%にしか低下しないと指摘した論文が、英国医学会会報「BMJ」に掲載された。これによれば、乳がん検診を10年間にわたって毎年、受けていた女性の約半数が、少なくとも1回は偽陽性(確実ではないが陽性の可能性もある)と診断され生体検査を受けているという。

 2010年にも、マンモグラフィーによる乳がん死亡率の低減効果はほんの「わずか」にすぎないとする論文が、米医学誌「ニューイングランド医学ジャーナル(New England Journal of Medicine)」に掲載されている。(c)AFP