【10月15日 AFP】デンマークの研究チームが9日、閉経後すぐにホルモン補充療法(HRT)を開始した女性は心疾患の発症やそれに伴う死亡のリスクが低く、また16年間に及んだ調査結果を見る限り、過去に報告された高いがんの発症率もみられなかったとする研究論文を医療情報サイト「bmj.com.」で発表した。この論文の発表で同療法をめぐる賛否両論が再燃している。

 研究チームは「閉経後早い時期にHRTを開始した場合には死亡、心不全、心筋梗塞(心臓発作)のリスクが著しく下がっていることを発見した。研究結果は、がんや脳卒中、深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓(PE)のリスク上昇と関連するものではない」と論文で記している。

 HRTは女性ホルモンのエストロゲンかプロゲステロン、また時にはその混合を用い、更年期にみられるほてりや性的欲求の減退、膣の乾燥といった症状を緩和する。

 米国立衛生研究所(US National Institutes of HealthNIH)傘下で閉経後の女性の健康に関する大規模追跡調査を行っている「女性の健康イニシアチブ(Women's Health InitiativeWHI)」は、2002年の報告書でHRTによる乳がんリスクの増加を指摘している。さらにその1年後、英調査「ミリオン・ウーマン・スタディ(Million Women StudyMWS)」も同じ指摘をしており、以来HRTについてはその是非が論じられてきた。特にMWSの報告はがんリスクが30~100%も上昇すると主張するものであったため、その研究手法については欠陥が指摘されるなど批判も絶えなかった。

 今回の研究は閉経後の女性でHRTを受けた502人と受けなかった504人の計1006人を対象に行われた。HRTを受けたグループのほうが平均年齢が5.7か月高かったこと以外、体重、健康、喫煙歴など、2グループ間に大きな差異はなかった。このうちHRTを受けていたグループは10年間の療法の後、科学者たちから副作用について指摘され、2002年にHRTを中止するよう勧められた。データはHRT中止当時とその後の6年間に集められた。

 HRT開始から16年後のデータを分析したところ、HRTを受けていなかったグループでは40人が死亡、8人が心疾患と診断され、11人が心臓発作を起こしていたのに対し、HRTを受けていたグループで亡くなったのは27人、心疾患が3人、心臓発作は5人だった。

 一方、脳卒中とがんの発症率については、二つのグループで著しい違いはなかった。ただし、がんリスクに関する明確な結論を導くには、さらに長期にわたる追跡研究が必要だとしている。

 また研究チームによると、乳がんリスクを指摘した2002年のWHIの報告と今回ではいくつかの違いがあるという。WHIの報告で対象となった女性の平均年齢は64歳だったが、今回の調査では50歳だった。またWHIの報告では閉経後10年以内にHRTを開始した人が対象とされたが、今回の調査では、閉経後1年以内の女性が対象となった。また使用された薬剤の種類も異なるという。

 今回の発見に対し、専門家らの反応は分かれている。国際閉経学会(International Menopause Society)のトビ・ド・ビリエル(Tobie de Villiers)会長は「この研究でHRTは何の害も引き起こしておらず、それどころか素晴らしい恩恵をもたらしている」と歓迎した。

 他方、1990年以降、10万人の女性を対象に同様の追跡調査を行ったとされるフランスの報告書「E3N」の著者、フランソワーズ・クラベル・シャプロン(Francoise Clavel-Chapelon)氏は、今回の研究について根拠が薄いと強く批判している。2007年に発表された「E3N」では、今回の調査で用いられたものと同じ薬を使用し「乳がんリスクは倍以上だった」とシャプロン氏は指摘している。(c)AFP