【8月7日 AFP】長きにわたり、若者たちを孤立させる要因であるとみなされてきたコンピューターゲーム――しかし現在、ニュージーランドのプロジェクトチームが若年性うつ病の治療に効果的なコンピューターゲーム「SPARX」を開発中だ。

 ファンタジーロールプレイングゲームのSPARXは、認知行動療法(CBT)と呼ばれる心理学的アプローチで、若者たちにうつ病への取り組み方法を伝えるゲームだ。プレーヤーは戦士となり、火の玉でネガティブな考えを吹き飛ばして悲観と絶望の沼から世界を救いだすことが目的だ。

■深刻になりすぎずに自分のペースで

 オークランド大(Auckland University)の児童青年精神科医でプロジェクトリーダーのサリー・メリー(Sally Merry)氏は、この型破りのアプローチは若者たちに支持されたと語る。

 この治療方法なら、プライバシーを守りながら、自分のペースでうつ病に取り組むことが可能で、「精神衛生上の問題に対して、深刻になりすぎずに取り組むことができる」とメリー氏は語る。

「治療行為自体が憂うつなものである必要はまったくない。私たちは治療を楽しくすることを目指している」

 メリー氏によると、うつ病に苦しむ若者の75~80%が、なんの助力も得られないでいるとし、その結果、学校の成績が下がったり、人間関係の中で孤立したり、将来を悲観するようになるという。「気分が落ち込んでいても、それが何なのかわかっていないことが多い」とメリー氏は説明した。

「『けだるさ』を自分で感じていることに気づきながらも、それに耐えなきゃいけないと思いこんでしまう。SPARXと認知行動療法を用いることで、『それに耐える必要はない』と伝えることができる」

■「エンターテインメントとして楽しめるように」

 ゲームは7つのステージに分かれており、各ステージは35~40分でクリアすることができる。これはちょうど1回のカウンセリングと同程度の時間。対象年齢は13~17歳で、ちょうど若年性うつが始まる時期だ。

 プレーヤーはガイド役のキャラクターに導かれながらステージを進み、それぞれのステージには、「怒りの管理」「衝突の解決」「リラックス呼吸法」など、それぞれの学習目標がある。

 ステージをクリアするにつれ、ゲーム中の世界は徐々に不気味さを和らげ、明るい世界になって行く。

 メティア・インタラクティブ(Metia Interactive)のマル・ニホニホ(Maru Nihoniho)氏は、若者たちが学習行為だと思わずに楽しめるような魅力あるゲームにすることが難しかったと語る。

「学習目標を達成しつつゲームとしてデザインする必要があった。つまり、一般ゲームにあるようなインタラクティブな3D環境やパズル要素、クエストなどのエンターテインメントとしての価値を維持しなければならなかった」

 その目標を達成するため、開発チームは14か月の開発期間中、若者たちのテストグループから得られるゲームへの反応を重視した。なかには銃撃戦や流血のリクエストもあった。

「ゲームの性質上、銃撃戦は入れることができない。だから機関銃や爆弾の代わりにキャラクターに杖を持たせ、ネガティブな考えをポジティブなものに変える光の玉を撃てるようにした。どこで妥協が成り立つかという問題だった」とニホニホ氏は語った。

■臨床で効果、賞を獲得、近日リリースへ

 英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(British Medical JournalBMJ)に今年発表された臨床結果によると、このゲームは、軽度から中程度のうつ病に対して、1対1の対人カウンセリングと同程度の治療効果があった。

 同ゲームは国連(UN)のワールドサミットアワード(World Summit Awards)でイノベーション賞を獲得。メリー氏によると米国や英国、カナダ、オーストリアからゲームに対する注目が集まっており、また非英語圏でも翻訳版のプロジェクトが持ち上がっている。

 ゲームが一般向けに発表される期日はまだ決まっていないが、メリー氏は、学校や医師、若者向けの施設などを通じてゲームを配付したい考えを語った。

 またプロジェクトチームは、インターネット上で提供し、iPadやアンドロイド(Android)端末などで遊べるようにすることや、同性愛者の若者向けに「レインボーSPARX(Rainbow SPARX)」を制作するなどといった特別バージョンの開発も検討中だという。(c)AFP/Neil Sands