【2月20日 AFP】ヒト感染する能力のある強毒性鳥インフルエンザ(H5N1)ウイルスの変異株に関する2論文の公開の是非を検討していた世界保健機関(World Health OrganizationWHO)は17日、スイス・ジュネーブ(Geneva)で開いた会合で、全文公開すべきだとの勧告を決定した。ただし、論文公開と研究再開の前には安全評価を実施する必要があることでも合意した。

 論文の執筆者の1人でWHO会合に出席したオランダのロン・フーシェ(Ron Fouchier)教授によると、出席者は「論文の全文公開は、公衆衛生に利する」との意見で一致したという。

 オランダと米ウィスコンシン(Wisconsin)州の研究チームはそれぞれ前年末、哺乳類間で空気感染するH5N1変異株の作成に成功した。これを受けて、変異株が研究室から流出して悪用されたり、大量の死者が出る大流行につながる懸念が浮上。米国が、論文の主要部分を非公開とするよう求めていた。

■検証後に研究再開へ、科学誌も決定を支持

 科学者らは1月20日に追加研究の60日間の一時停止に合意していたが、フーシェ教授によると今回の会合で、より幅広い専門家による危険性の検証や公開議論を行うため、停止期限を無期限とすることが決まったという。

 フーシェ教授は「この研究は進める必要のある極めて重要な研究だ」と述べ、安全性の確保、バイオセキュリティーの問題、悪用防止などの点で合意ができ次第、研究を再開させると語った。

 会合には、論文の掲載を差し控えるよう求められた米科学誌サイエンス(Science)と英ネイチャー(Nature)の代表者も出席。サイエンス誌のブルース・アルバーツ(Bruce Alberts)編集長は「(掲載するか否かの)最終決定者が(編集長の)私であってはならない」と述べ、決定を支持するとのコメントを発表した。「論文のどの部分を編集すれば安全かを見極めようと多くの政府関係者が努力してきたが、あらゆる困難に直面していた」

 同紙はネイチャー誌とともに3月号に論文の一部掲載を検討していた。アルバーツ氏によれば2誌は関係当局と緊密に協力しており、追加情報を待って全文掲載を決める予定。同氏は、今回の決定が今後、同様の問題を解決する国際機関の設立につながることを期待すると述べた。

■広い分野の専門家で会合へ

 WHOによれば、 これまで確認されたH5N1型の感染例は15か国584人で、うち345人が死亡している。最も感染例が多い国はインドネシアだ。

 WHOの福田敬二(Keiji Fukuda)事務局長補は17日、「高い致死性を持つこのウイルスに科学界が強い危機感を抱いており、さらなる研究によって(このウイルスを)理解する必要があることが会合で強く示された」と語った。

 WHOは、より多岐にわたる分野の専門家を集めた会合を近く開催する予定。フーシェ氏は「今回はインフルエンザ専門家による会合だった。より広範囲の科学界と話し合いをする必要がある」と語った。(c)AFP

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