【12月5日 AFP】年を重ねてもアクティブに生きたいと考える米国のベビーブーム世代(45~64歳)の間で、膝関節や股関節の人工関節置換術が人気だ。

 米国のベビーブーム世代は約7600万人。その多くは、自分たちの親の世代のような座りがちの老後に背を向け、科学の進歩と外科技術の発展の助けを得て、ランニングやサイクリング、スキーといったスポーツを続けている。

 米国整形外科学会(American Academy of Orthopaedic Surgeons)によると、2009年に米国で膝関節や股関節の関節置換術を受けた90万6000人以上の4割超が、このベビーブーム世代だ。ドレクセル大学(Drexel University)の専門家、スティーブン・カーツ(Steven Kurtz)氏は、2030年までにベビーブーム世代の置換術の件数は、膝関節だけで現在の17倍の99万4000件まで増えると予測している。

■アクティブだからこそ起きやすい関節のトラブル

 行動的なベビーブーマーたちは、関節がすり減る関節炎が悪化しやすい。肥満の問題もある。

 約9000件の関節置換施術経験があるコロラド(Colorado)州の整形外科医、ダグラス・デニス(Douglas Dennis)医師によると、以前は患者の大半は歩けなくなった高齢者だったが、今は患者の年齢層が下がっている。同医師の患者には熱心なスキーヤーが多い。これまでに何度も膝の手術を受けながらもアクティブでいたいという彼らには「そうするよう奨励する」が、関節に負担のかかる「サッカーやバスケットボール、ラケットを使うスポーツは勧めない」という。

 新技術に希望を見出す人たちもいる。たとえば、英医療機器メーカー、スミス・アンド・ネフュー(Smith & Nephew)の「30年関節」だ。米女子テニス界の元スター選手、ビリー・ジーン・キング(Billie Jean King)が「20歳の頃に戻ったようで、テニスも再開した」と推薦しているが、医師らの中には現実的でないという批判もある。デニス医師いわく、「開発されてまだ5年の関節が30年もつなんて、どうして分かるのか。誠実でないマーケティングだ」。

■根強い人工関節人気

 それでも一部のベビーブーマーたちの人工関節信奉は根強い。

 1982年のボストン・マラソン(Boston Marathon)で2秒差で敗れ2位になったマラソン選手、ディック・ビアズリー(Dick Beardsley)氏(55)は2度、膝の関節置換術を受けた。3年前に右膝、2010年には左膝。現在、2012年4月のボストン・マラソン出場へ向けて週に110~130キロを走るところまで回復している。

「僕は人生を通じてずっとランナーであり続けてきた。サイクリストに転向しようと思ったこともあるが、(置換術を)試さないわけにはいかなかった」と、ビアズリー氏はAFPの取材に語った。「(術後)最初の6~8週間はひどかったけれど、根気よく走り続けた。少しずつ。最終的には手術前と同じペースに戻ったよ」

 医師の助言も欠かせないが、トレーニングについて担当医からは「走り続けなさいとは言わないが、やめなさいというつもりもない」と言われたという。これまでの検査では、関節が過度に摩耗している兆候はない。気を付けて足の裏全体を使い、踵に衝撃を与えないよう走っているおかげでもあると、ビアズリー氏は思っている。

 関節置換術を受けた米国の著名人には、元体操選手のメアリー・ルー・レットン(Mary Lou Retton、股関節)、歌手のビリー・ジョエル(Billy Joel、股関節)、女優でフィットネスDVDなども出しているジェーン・フォンダ(Jane Fonda)などがいる。

■置換術以外の可能性

 人工関節の未来が有望だったとしても、需要に供給が追いつくかどうかや費用の問題が残る。

 米医療業界誌「ヘルス・アフェアーズ(Health Affairs)」に掲載された研究によれば、現在の傾向が続けば、2030年までに米高齢者向け公的医療保険制度「メディケア(Medicare)」の負担は500億ドル(約3兆9000万円)に達すると予測される。政府が診療報酬を減らせば、民間保険会社も追随し、医師へのインセンティブは下がるだろう。

 また別の研究では、2016年までに股関節置換術の46%、膝関節置換術の72%が「順番待ち」の状態になるという予測もある。 

 待ちきれないベビーブーマーたちのために、さらに他の最新技術が別の手段を提供してくれるのかもしれない。ドレクセル大のカーツ氏は、報告の中で言及していない手法として「軟骨再生、組織工学、また関節疾患の進行を抑えて関節置換術の必要性を予防する薬物療法」などを挙げている。(c)AFP/Rob Lever