【11月25日 AFP】後天性免疫不全症候群(エイズ、AIDS)を引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)のうち、これまで西アフリカ・カメルーンのわずかな感染者にしか確認されていなかった珍しいウイルス株が、同国外にもほぼ確実に広がっているという報告が25日の英医学専門誌「ランセット(The Lancet)」に発表された。

 このウイルス株はHIV1型(HIV-1)のうちグループNと呼ばれる株で、1998年にエイズをすでに発症していたカメルーンの女性から発見された。以降、同国に住むHIV感染者1万2000人以上の検査の中でグループNのウイルスが確認されたのは、男女のパートナー2組を含む12例だけだった。

 今回、新たにフランスの医師らが報告した感染例は、1月に発熱や発疹、リンパ腺の腫れ、陰部潰瘍などでパリの病院に入院した57歳の男性。非常に高いHIV1型のウイルスレベルを示していたが、検査で株の種類を特定できないまま、2月には顔面まひを発症していた。さらに精密な血液検査を行った結果、Nグループのウイルス株に抗体が反応した。

 この患者の性行為の履歴を追ったところ、男性は直前までトーゴに滞在しており、そこで性行為を通じて感染した可能性が高いと医師らは考えている。フランソワ・シモン(Francois Simon)教授率いる医師チームは「HIV1型のグループNの一時感染の症例であり、この珍しいウイルスのグループの感染が、カメルーン国外へと広がっていることを示すもの。厳密な疫学的監視の必要性がある」としている。

 パリで発見された患者はエイズの症状が重篤なだけではなく、白血球の一種であるCD4リンパ球数の急減など免疫系の衰退が急速で、抗レトロウイルス薬の多剤併用療法を受けており効果は出ているが、今後も注意深い監視が必要な状態だという。

 グループNのウイルスは、サル免疫不全ウイルスに感染したチンパンジーの生肉などを扱った際に、人間に感染したものと考えられている。

 HIVはHIV1型(HIV-1)とHIV2型(HIV-2)に大別され、HIV1型は最も多いグループMのほか、グループO、グループPと今回のグループNの4グループに分類される。この中でグループOやNと同じく珍しいグループPは、ゴリラから人間に感染した可能性を指摘する研究が2009年に発表されている。またHIV1型に比べて少ないHIV2型も、霊長類から人間に感染したと推測されている。(c)AFP