「エイズの最終的な克服に希望」、米感染症研究所長
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【5月31日 AFP】後天性免疫不全症候群(エイズ、AIDS)という病気が世に知られるようになってから30年。エイズ克服を今ほど大きく期待できた時はないと、米国のエイズ研究第一人者が語っている。
米国立アレルギー感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases、NIAID)の所長を1984年から務めるアンソニー・ファウチ(Anthony Fauci)氏は、ワクチンや治療法、予防法に関する最近の進歩で、エイズ克服の希望に拍車がかかっていると言う。特に「過去1年半の重要な進歩のいくつかは、それらを組み合わせることで基本的には、われわれが最終的にエイズをコントロールできること、そしてエイズの流行を最終的に終わらせることができることを非常に強く示している」。
最近の2つの臨床試験によって示されたのは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染を予防する上での抗レトロウイルス薬の効果だ。
ひとつは2007~2009年に行われた研究で、HIVに感染していない同性愛者の男性に、抗レトロウイルス薬を組み合わせて経口摂取してもらったところ、HIV感染のリスクが44%低減した。さらに定期的に摂取すると、リスクは70%以上さがるという。
また、この5月に発表された研究では、異性愛者のカップルで、パートナーのうち片方がHIVに感染しており、もう一方が感染していない事例を主な対象とした臨床試験を行い、HIVに感染したパートナーに抗レトロウイルス薬の早期治療をした場合、もう一方のパートナーに感染するリスクがほぼゼロになることが示された。
「疾患へと進行する前の初期段階で治療すれば、その患者本人の健康状態に良好な影響があることはすでによく知られているが、それだけではなく、HIVに感染しているパートナーから、感染していないパートナーへの感染をも防ぐことができるという強力な副次効果があることが示された非常に重要な」研究となったと、ファウチ氏は語る。
■ワクチン開発に向け前進
世界で初めてエイズの症例が報告されたのは1981年6月だった。以来、エイズとの戦いの最前線にNIAIDとその研究者たちは立ってきた。
20年間、開発することができなかったワクチンについては2009年、タイで行われた臨床試験で約30%の予防効果が確認された。「まだ31%の効果だが、少なくともこれを改善させていけるという考え方が合っていることは証明された」
2010年には1人の個人から発見された2種類の抗体が組み合わさった場合に、HIV株の90%以上を阻止することが実験で発見された。
現在は、ワクチン用に分離すべきHIVの特定部分を突き詰めることに研究の焦点が合わされている。ファウチ所長は「ワクチンを手にできるのは今年か来年、その先になるかもしれないが、大きな進歩を遂げつつあることは確かだ」と述べた。
■HIV予防対策も重要
一方で感染の拡大を止めるためには発展途上国で、従来の予防法をもっと包括的に適用していく必要があると強調する。「低所得国、中所得国では、治療が必要な人のうち3~4割程度しか治療にアクセスできていない。これに取り組める唯一の方法は、これまでも力を注いで来たように、HIV感染の予防でしかない」。ファウチ所長によると、毎年270万人が新たにHIVに感染している。
世界の1年の研究予算は現在約110億ドル(約9000億円)だが、本来は1年につき、さらに100億~150億ドル多い予算が必要だ。しかし世界的な景気低迷の中、研究予算は削減されており、発展途上国とのギャップを埋めるのは困難な課題だとファウチ所長は述べている。(c)AFP/Jean-Louis Santini