【5月11日 AFP】ジェイミー・サイモン(Jamie Simon)さん(32)は、前年のメキシコ湾(Gulf of Mexico)の原油流出事故後、6か月間にわたって原油の浮かぶメキシコ湾内のはしけで、原油除去作業員たちの食事作りや洗濯、清掃などを行った。

 それから1年後、サイモンさんはどうきやおう吐、めまい、耳の感染症、のどのはれ、視界の悪化、物忘れなどに悩まされている。サイモンさんは、メキシコ湾の英エネルギー大手BPの油田掘削施設「ディープウオーターホライズン(Deepwater Horizon)」から流出した原油や、原油を分解するために投入された分散剤などに含まれる有毒物質が原因だと考えている。

 サイモンさんが当時、化学薬品の安全性をたずねたところ、BPの現場責任者からは、食器用洗剤と同じくらい安全なので心配はいらないとの返答があったという。

 地元医師のマイク・ロビショー(Mike Robichaux)氏は、サイモンさんのような患者をこの数週間で60人は診たと語る。ロビショー氏の病院があるのは人口1万人ほどの町。この「謎の病」について、すべてBPのせいだと考えている住民もいる。

 アンディ・ラバフ(Andy LaBoeuf)さん(51)も、自分のボートを使い、原油流出防止用のオイルフェンスを設置する作業を4か月間行ったが、その後病気になり、働くこともできなくなった。

 ラバフさんは「長い間病気なんだ。気分が悪くなり、その後回復しない」と語る。記憶障害やのどの痛みが1年間続いているという。

■他の流出事故でも同様の症例

 米ルイジアナ(Louisiana)州の報告では、原油流出に関連した健康障害は415件あった。のどや目の痛み、呼吸器感染症、頭痛、おう吐などの症例が出ている。

 目の痛みや呼吸器系の問題、おう吐や心理ストレスなど同様の症状は、2002年にスペイン沖で発生した石油タンカー「プレスティージ(Prestige)」号による原油流出事故や、1989年の米アラスカ(Alaska)州沖での石油タンカー「エクソン・バルディーズ(Exxon Valdez)」号の原油流出事故でも報告されている。

 血液に含まれる揮発性溶剤の値の測定を手伝っている地元の化学者、ウィルマ・スブラ(Wilma Subra)氏は、原油除去作業員やダイバー、漁業従事者らの血中のベンゼンの値は、通常よりも36倍高いと指摘する。

「重症の人がどんどん増えている。これは明らかに、今も(有毒物質に)さらされる状況が続いていることを示している」と、スブラ氏は語る。汚染経路としては、直接肌に触れたり、汚染水産物を食べたり、汚染大気を吸い込んだりなどが挙げられるという。

 スブラ氏は、有毒物質汚染の専門家による医療を提供してほしいと連邦当局に要請しているものの、当局からは一度も返答がないと語った。(c)AFP/Kerry Sheridan