【4月5日 AFP】牛の組織から作られた生体弁をカテーテルで患者の心臓に入れる新しいタイプの手術法が3日、米ルイジアナ(Louisiana)州ニューオーリンズ(New Orleans)で開かれた米国心臓病学会(American College of Cardiology)の会議で発表された。米医師らは、胸部の切開手術を行う必要のない新たな方法として大きな期待を寄せている。

 この手術法は、重度の大動脈弁狭窄(きょうさく)症の患者を主な対象としている。大動脈弁狭窄症は、心臓の弁が硬化して狭くなり、血液を送り出す心臓の負担が大きくなる疾患で、65歳を超えた米国人の9%が発症している。まったく治療を行わなければ2年以内の致死率が最大で50%に達する疾患だ。

 これまでは治療に心臓の切開手術が必要だったが、新たな治療方法ではチューブを使って生体弁を患者の体内に入れる。生存率も従来の手術法と変わらない。また、衰弱した高齢の患者の再入院費の削減につながり、平均余命も最高1.9年長くなる。この手術法はすでに欧州で実施されているが、この生体弁を治験用医療機器とみなしている米食品医薬品局(FDA)は、まだ承認していない。

 研究はPARTNER研究プログラムの一環として実施されたもので、2つの治療方法を比較する世界で初めての無作為化試験が行われた。

■新治療法「経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)」

 研究は、年齢の中央値が84歳の患者699人を対象に実施。被験者は、既存の大動脈弁置換術(AVR)と新たな経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)とを実施するグループに無作為に振り分けられた。

 新たな手術法であるTAVRは、牛の組織から作られた生体弁をとりつけたワイヤーメッシュのステント(動脈を開いて保持する医療機器)を、脚の動脈または胸郭からカテーテルで心臓に入れる。生体弁「Edwards SAPIEN」は、米カリフォルニア(California)州の循環器疾患の治療製品を手がけるエドワーズ・ライフサイエンス(Edwards Lifesciences)が作っている。

 30日目の初期結果では、カテーテルで生体弁を入れた患者と心臓切開手術を行った患者を比較すると、死亡率は心臓切開手術患者が6.4%だったのに対し、生体弁施術患者は3.4%にとどまった。

 その後両グループの死亡率は徐々に近づき、術後1年でほぼ変わらなくなった。

 また、大量出血の危険性も、TAVRを行った患者の方がAVRを行った患者より低く、AVR患者が19.3%だったのに対し、TAVR患者は9.3%にとどまった。心調律異常でも、AVR患者が16%だったのに対してTAVR患者は8.6%にとどまった。

■「近年最大の進歩」、だが課題も残る

 この研究に参加していない米ケンタッキー大学(University of Kentucky)のデビッド・モリターノ(David Moliterno)教授も、「循環器の医療で近年最大の進歩の1つだ」と述べ、バルーン血管形成術とステントの発明に次ぐ「大きな転換点になるだろう」と語った。

 しかし一方で、TAVRは「重度の血管合併症」の危険性がAVRよりも大幅に高かった。AVRを行った患者が3.2%だったのに対し、TAVR患者は11%にも上った。また、脳卒中のリスクも高く、術後30日でAVR2.1%に対してTAVRは3.8%、術後1年後の時点でAVR2.4%に対しTAVRは5.1%となった。TAVRを受けた患者が脳卒中になりやすかった理由についてはわかっておらず、今後の研究の課題になっている。(c)AFP/Kerry Sheridan