【10月2日 AFP】学童期前後の子どもにみられる注意欠陥・多動性障害(ADHD)が、本人の行動習慣や親のしつけのせいではなく、遺伝子的原因に由来しているという説を少なくとも部分的に裏付ける発見が9月30日、英医学専門誌「ランセット(The Lancet)」に発表された。

 ADHDの要因が遺伝的なものかどうかについては長年議論されてきたが、新研究では初めて、遺伝子に関係していることを示す直接的な証拠が明らかにされた。

 ADHDは多動性、不注意、衝動性を症状の特徴とする発達障害のひとつで、それゆえ学業や人間関係に支障が出る。子どもの50人に1人にみられるという推計もある。

 発表によると、英国の研究チームがADHDと診断された子ども366人と、ADHDではない子ども1047人の遺伝情報を比較したところ、2つのグループには「コピー数多型」(CNV)と呼ばれる領域で明らかな違いがあることが分かった。CNVは細胞1個につき2コピーあるはずの遺伝子が少なかったり、多かったりする「遺伝子の数の個人差」で、少ない場合は1コピー、多い場合は3コピーとなる。

■偏見の克服に期待

 英カーディフ大学(Cardiff University)のアニタ・ターパル(Anita Thapar)教授(神経精神病学・遺伝学)はロンドン(London)で会見し、「ADHDは同じ家系内での事例が多いことから、遺伝子的要因があるだろうとは長年思われてきた。しかし今回、初めて直接的な遺伝的連関を発見し、興奮している」と述べた。

 さらにADHDと関連するCNVは、第16染色体に集中していることも明らかになった。第16染色体は自閉症や統合失調症との関連も示唆されている。この2つの疾患についても謎が多いが現在では、脳障害だという認識がほぼ確立している。

 ターパル教授は「ADHDについては偏見が多く、障害ではなく、しつけが悪いせいだなどとされ、子どももその親も汚名を着せられがちだった。直接的な遺伝子的要因の発見が、偏見をなくすことに役立ってほしい」と語った。

 共同研究者のケート・ラングリー(Kate Langley)氏は、「ひとつの遺伝子変化だけではなく、CNVも含むいくつかの遺伝子変化が絡んでいる可能性や、そこにさらにまだ知られていない環境的要因も絡んでいるかもしれない」と述べた。

 ADHDの治療としては現在、集中的な薬物治療と行動療法が行われている。今回の発見の成果は目覚ましいが、ADHDの完全な理解と対症療法の確立までにはさらに長い道のりがあると研究は指摘している。(c)AFP