【3月25日 AFP】マラリアなど感染症の媒介として世界で深刻な問題になっている蚊の「伝染力」を、「空飛ぶワクチン」として転用する研究を、自治医科大学(Jichi Medical University)のチームが進めている。

 発表された研究では、蚊の遺伝子を組み替えることで、忌み嫌われるばかりの蚊を数百万人に無料で接種できる「空飛ぶワクチン」に変える実効性が示された。

 同チームでは先に、サシチョウバエを媒介として重度の潰瘍(かいよう)を引き起こし、時に死にも至る原虫性疾患リーシュマニア症の対策として、蚊の唾液にワクチンとして働くタンパク質が含まれるよう遺伝子を組み替えた実績があった。

 今回の研究を率いた自治医大の吉田栄人(Shigeto Yoshida)准教授によるとチームは、遺伝子を組み換えた蚊に刺されたマウスでリーシュマニア症に対する抗体発現がみられた、つまり免疫ができたことを確認した。これをマラリア予防に応用することも可能で、10年後には実現しているかもしれないと、マラリア研究の専門家でもある吉田准教授は期待する。

 免疫反応を引き起こすマラリアの抗原は頻繁に変異するため、有効なワクチンが実質的には存在しない点が問題となっている。今のところ、マラリアに対する免疫を唯一強化する方法は、繰り返し蚊に刺されることしかない。

 しかし吉田氏は、必ず科学によって解決がもたらされ、媒介動物である蚊がいつか発展途上地域でのマラリア撲滅に一役買う日が来るのではないかと展望している。

 蚊の転用研究に問題は皆無ではない。事前情報がないままワクチン蚊を放てば倫理的問題が生じるだろうし、またワクチン蚊だとしても依然、実際にマラリアに感染している人を刺してその血液を通じて感染を広げかねない。

 吉田氏のチームではこうした問題に取り組んでいくとともに、自分の体内に入ったマラリア原虫自体を殺す能力のある蚊の開発にも希望をもっている。(c)AFP